市街化調整区域は駐車場経営がおすすめ!他の土地活用との比較も
市街化調整区域での建築には土地活用の方法や建築する施設によって様々な制限があり、国や自治体への手続きが大変です。駐車場経営のように建築のない土地活用であれば、手早く事業が始められます。この記事では市街化調整区域での土地活用を駐車場経営と比較、解説します。
目次
市街化調整区域は駐車場経営で土地活用!
市街化調整区域で建築を行うには様々な制限があります。土地の利用に関する法律のほかにも、建築するものによって国や自治体の制限があるため、自治体との事前協議、申請や手続きなど時間と手間がかかります。
しかし、建築を伴わない土地活用であれば、手早く事業が始められます。なかでも、駐車場経営は収益性も高くおすすめです。この記事では、市街化調整区域での土地活用を駐車場経営と比較しながら、基本知識についても解説していきます。
市街化調整区域とは
市街化調整区域とは、全国の土地の中で都市計画を抑える区域として設定された区域をいいます。
都市計画法による3つの区域
都市計画法により、都市計画区域は市街化区域、市街化調整区域、非線引き都市計画区域の3つに分かれます。土地活用を検討している土地がどの区域にあたるのかは、自治体のHPから確認できます。
【市街化区域】
都市計画を進める区域です。道路や公園、下水道などのインフラ整備が重点的に整備されます。
【市街化調整区域】
乱開発を防ぎ市街化を抑制していくために各自治体が設定した、「基本的に建築ができない区域」です。都市計画法に定めた条件に合う施設だけが、開発許可もしくは建築許可を得ることで建築可能になります。
【非線引き都市計画区域】
原則として建築は可能です。
市街化調整区域で土地活用する条件
市街化調整区域での土地活用を考えるときにどのような条件があるのかをみていきましょう。
地目を確認する
土地の地目が「田」や「畑」等の「農地」になっている場合、建築するしないに関わらずそもそも土地活用ができない可能性があります。詳しくはこの記事の後半にある「市街化調整区域で農地転用する手続き」の見出しで解説します。
土地活用を検討している土地が農地にあたる可能性があれば、全国農業会議所が運営・管理を行っている「全国農地ナビ」 で調べておきましょう。
建物を建築しない土地活用方法を選ぶ
市街化調整区域での建築は制約が多く、許可が下りない可能性もあり、手続きには大変な手間と時間がかかります。建築をしない土地活用を選べば、事業はすぐに開始できます。駐車場経営であれば、初期費用も少なく、利回りでも劣りません。
事前協議や届け出をする・許可をもらう
市街化調整区域で建物を建築する土地活用を検討するには様々な制約があります。
開発許可を取るための手続きは建築する施設の目的や規模によって適用される法令や必要な手続きが細かく分かれます。なお、自治体によって実際の手続きは異なることがあります。また、許可が下りるまでには相当な日数がかかることにご注意下さい。
農地の場合は、転用は簡単にできません。市街化調整区域にある農地の場合は転用の許可が必要で、転用許可申請書の提出が必要です。詳細については、この記事後半の説明をご覧下さい。
市街化調整区域で建築できる3つのパターン
市街化調整区域で建築するには、「建築許可も不要な場合」「例外的に建築可能な場合」と「事前協議と届け出により建築可能な場合」とがあります。
- 開発行為を伴わない建築で、建築許可を要しない建築
- 開発行為を伴わない建築で、建築許可を受ける建築
- 開発行為を伴う建築で、開発許可を得て行う
具体的には、店舗・学校・理美容院、ホテル・遊園地・ゴルフ場、ガソリンスタンド・コンビニ、寺・墓・ゴルフ練習場・老人ホームなどが挙げられます。つまり、地元住民や産業のために意義のある建築であれば、開発許可される可能性があるということです。
なお、市街化調整区域では都市計画が進められていないため、建築にあたっては、電気、ガス、水道、下水道、道路舗装などのインフラ整備を自ら行わなければならない場合があります。
市街化調整区域で駐車場経営するメリット
市街化調整区域での駐車場経営にはどんなメリットがあるのか、みていきましょう。
- 建物の建築不要で手間が省ける
- 都市計画税がかからない
- 収益予測が立てやすい
- 初期費用の負担が小さい
- 用途の変更がしやすい
市街化調整区域で駐車場経営するデメリット
- 減税効果がない
税についての詳細は「駐車場経営の固定資産税はいくら?税金計算・経費の考え方・確定申告を徹底解説」の記事をご覧下さい。
- 需要が高くない可能性も
市街化調整区域の駐車場経営と9つの土地活用を比較
市街化調整区域での土地活用には駐車場経営以外にも様々なものがあります。それぞれのメリット・デメリットをみていきましょう。
①ソーラー(太陽光発電)
市街化調整区域での太陽光発電経営にはどのようなメリット・デメリットがあるでしょうか。
太陽光発電のメリット
- 整地不要、建築許可不要
- 立地を選ばない
- 手間がかからない
太陽光発電のデメリット
- 減税効果がない
- 利回りは低い
- 経営上のリスク
太陽光パネルの設置費用は10㎡あたり30万円が相場ですので、土地の広さによりますが数百万円以上の初期費用が必要になります。売電価格は年々引き下げられており、初期費用の回収に10年はかかるため、今後の状況が読めない中での新規の投資は難しい環境といえるでしょう。
なお、一部の自治体では、景観維持や周辺住民の保護、安全面への配慮といった理由から、ソーラーパネル設置に対する独自規制を強化する動きもあります。
②資材置き場
市街化調整区域での資材置き場経営にはどのようなメリット・デメリットがあるでしょうか。
資材置き場のメリット
- 整地不要
- 長期の契約で安定した経営ができる
- 手間がかからない
資材置き場のデメリット
- 減税効果がない
- 利回りは低い
- 借り手がいることが前提
③墓地・霊園
霊園業者に土地を貸すという土地活用もあります。
墓地・霊園のメリット
- 整地不要、初期費用がかからない
- 固定資産税がかからない
- 不便な土地でも活用できる
墓地・霊園のデメリット
- 立地を選ぶ
- 転用が難しい
- 経営上のリスク
④トランクルーム
市街化調整区域での土地活用にトランクルームはお勧めできません。
コンテナ倉庫は建築物に該当するというのが国土交通省の見解で、建築基準法に適合しないコンテナ倉庫は違法建築物として是正指導・是正命令をするように都道府県へ通知しており、設置者が撤去した事例もすでに発生しています。
⑤高齢者向けの施設
高齢者向けの施設建設は、市街化調整区域でも認められやすい開発行為です。施設の運営者となる介護事業者と賃貸借契約を結び、地代を受け取る活用方法となります。運営主体が民間会社による民間施設であるか、社会福祉法人や自治体による公的施設なのかによって、建築の手続きと注意するポイントが変わってきます。なお、公的施設については「社会福祉施設」の見出しで解説しています。
高齢者向け施設の3つの種類
高齢者向け施設には、大きく「民間が運営する高齢者向け住宅」「住居系以外の介護施設」「公的施設」の3種類があります。さらに、利用者が介護保険の利用ができる施設と利用できない施設があり、介護保険を利用できる施設は、市街化調整区域による開発規制とは別に、自治体による総量規制を受けます。
名称 | 介護保険の適用 | 総量規制 | ||
民間が運営する 高齢者向け住宅 |
有料老人ホーム | 介護付き | ○ | ○ |
住宅型 | なし ※1 | なし | ||
健康型 | なし | なし | ||
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住) | なし ※1 | なし | ||
住居系以外の介護施設 | デイサービス | ○ | ● ※2 | |
ショートステイ | なし ※3 | なし | ||
グループホーム | ○ | ○ | ||
公的施設 (⑥社会福祉施設に該当) |
特別養護老人ホーム | ○ | ○ | |
介護老人保健施設 | ○ | ○ | ||
介護療養医療施設 | ○ | ○ | ||
ケアハウス(軽費老人ホーム) | ○ | ○ | ||
介護医療院 | ○ | ● ※4 |
※1 施設内に訪問介護事業者を併設するケースが増えています。その場合、提供するサービスは介護付き有料老人ホームと変わりません。
※2 2020年8月時点で、小規模の場合総量規制あり。
※3 介護付き有料老人ホーム等がショートステイを受け入れる場合もあります。
※4 新設の場合
総量規制が設けられている理由は、介護サービスは9割が自治体の負担であり、利用者の負担は1割だけであるため、介護保険利用者の増加に伴い自治体の負担が大きく財政を圧迫しているからです。
総量規制がかかる介護施設は特定施設(「特定施設入居者生活介護」の略)と呼ばれます。具体的には介護付き有料老人ホームとグループホームが該当します。これらの特定施設は、自治体が募集しているタイミングで応募して選ばれなければ建設することができません。
このように、高齢者向け施設の建築には、市街化調整区域での開発許可の問題と、特定施設に対する総量規制によって二重に制限されています。
とはいっても、都市部にみられるような介護施設が足りない自治体では、総量規制の対象となる施設の募集を毎年のように受け付けているところもあります。最新の募集状況は自治体に確認しましょう。
高齢者向け施設のメリット
- 安定した高利回り
- 減税効果
高齢者向け施設のデメリット
- 初期費用が大きい
- 経営上のリスク
- 転用が難しい
- 介護報酬が経営に影響
⑥社会福祉施設
社会福祉施設とは、公的法人である社会福祉法人が介護や保育等の社会福祉サービスの提供の場として運営する特別養護老人ホーム等の公的施設のことで、社会福祉施設については市街化調整区域においても事前協議と届け出を行うだけで建築が認められています。
公的施設の建築は社会福祉法人や自治体でないと許可が下りないため、社会福祉法人などに土地を貸して建築してもらう方法をとるのが原則ですが、都市部ではオーナーが建物を建て社会福祉法人に貸し出す方式で特別養護老人ホームを経営することができるようになりました。
社会福祉施設のメリット
- 高利回り
- 経営リスクがない
社会福祉施設のデメリット
- 初期費用が大きい
- 収入は半分
- 共同経営者が必要
⑦医療施設
医師または医療法人へ土地を一括で貸し、収入を得る土地活用法です。十分な駐車スペースを確保できる広さの土地であれば、市街化調整区域の土地活用として非常にメリットの大きい活用方法です。
医療施設のメリット
- 安定した高利回り
- 初期費用負担が少ない
- 減税効果
医療施設のデメリット
- 転用が難しい
- 立地を選ぶ
- 経営上のリスク
⑧日用店舗
地元住民が日常生活で使うものを扱う店舗であれば、市街化調整区域でも開発許可が下りやすく、建築できる可能性が十分にあります。
例えばコンビニの場合、コンビニ側に土地と建物を貸し出すリースバック方式と、土地だけを貸す事業用定期借地契約を結ぶ方法とがあります。店舗の建設費などすべてコンビニ側が負担する契約で、土地を貸すだけでも収入になるのが魅力的でしょう。
ただし、リースバック方式に比べて土地のみを貸し出す事業用定期借地契約は、地代収入だけのため収入は安定しますが収益性は低くなります。
日用品店舗のメリット
- 安定した高利回り
- 手間がかからない
- 競合が少ない
- 減税効果
日用品店舗のデメリット
- 初期費用が大きい
- 建築許可が下りないと開発できない
⑨売却
市街化調整区域の土地売却は、市街化区域の土地売却と何が違うのでしょうか。
買い手が付くとは限らない
市街化調整区域での土地売却が難しいいちばんの理由は、買い手にとっては建築が認められるかどうかの保証がないまま購入を決めなければならないリスクにあります。
太陽光発電・資材置き場は、建築が不要で固定資産税分はまかなえますが、収益としてはプラスマイナスゼロか多少プラスになる程度の利回りです。
高齢者向けの施設⑥社会福祉施設は、建築は認められやすいですが施設建設のための初期費用が億単位必要になります。
医療施設・日用店舗は、建築は認められやすいですが、元々人口の少ない地域のため、既に競合がある場合は仮に開発許可が下りても需要が見込めず採算が取れません。
買い手にとっては土地購入費用が初期費用に上乗せされ、ますます採算を取ることが難しくなります。以上の理由から金融機関による担保評価も低く、借入の銀行審査も通りにくいため、買い手を見つけるのは簡単ではありません。
土地利用の制限があるからこそ土地の価格が安いこと、固定資産税評価額も低いことを評価する買い手を根気強く探すしかないでしょう。
農地は原則として売却できない
そもそも、土地の地目が「田」や「畑」等の「農地」になっている場合、基本的には農地としてでしか売却することができません。詳しくはこの記事で後ほど解説する「市街化調整区域で農地転用する手続き」の見出しをご覧下さい。
取り扱う不動産業者が少ない
市街化調整区域の不動産は流通量が圧倒的に少なく、物件の評価額が低いため、仲介手数料が安くなります。不動産業者の実利が少ないため、取り扱う業者自体が少ないです。
市街化調整区域で建物を建築する手続き
建築する施設の目的や規模によって適用される法令や必要な手続きが細かく分かれます。なお、自治体によって実際の手続きは異なることがあります。
開発行為を伴う建築で、開発許可を得て行う場合
- 事前届
- 標識の設置、住民説明、説明報告書の提出
- 説明報告書の縦覧、見解書の提出
- 事前協議
- 開発事業協議
- 協議締結
- 開発許可申請(法第29条)
- 開発審査会の審議
- 許可
- 工事完了検査 検査済証の交付 完了公告(法第36条)
- 建築確認申請
開発行為を伴わない建築で、建築許可を要しない建築の場合
- 事前協議
- 証明申請(省令第60条)
- 証明
- 建築確認申請
開発行為を伴わない建築で、建築許可を受ける建築の場合
- 建築許可申請(法第43条)
- 開発審査会の審議
- 許可
- 建築確認申請
それぞれの段階で手続き処理に相当な日数がかかります。例えば開発許可申請後、許可が下りるまでは平均して21日かかります。
市街化調整区域で農地転用するための手続き
農地転用とは、農地を農地以外の目的で使用することです。転用は簡単にできません。市街化調整区域にある農地の場合は転用の許可が必要で、転用許可申請書の提出が必要です。
この記事で扱う土地活用方法への転用であれば、第2種か第3種以外の農地の転用はできません。また、農振法(農業振興地域の整備に関する法律)により、農振地域に指定された農地に関しては原則として農地転用が認められません。
手続きとしては、農地転用許可申請書の提出→検査→許可という流れになります。転用目的のほか、農地の面積や区域によっても手続きは変わります。
まとめ
本記事では市街化調整区域の駐車場経営について解説しました。以下に本記事で触れた内容をまとめていますので、参考にしてください。
- 市街化調整区域で土地活用をする場合、その土地にはどんな制約があるのかをまず確認する
- 市街化調整区域での駐車場経営は、建築が不要で初期費用が安いが、市街化区域に比べて需要は少ない
- 太陽光発電、資材置き場は、建築が不要で初期費用が安いが、利回りが低い
- 墓地・霊園はその後の転用が難しい
- 高齢者向け施設は、比較的高利回りだが建築に億単位の初期費用が必要
- 社会福祉施設、医療施設は、原則として借り手が建築するため、土地貸しとなってしまい賃料が安い
- 日用店舗は、出店許可の見通しが立ちにくいが高利回り
- 市街化調整区域での土地売却は、不動産業者も買い手も見つけるのが難しい
- 市街化調整区域で建物を建築する手続きは、建築する施設の目的や規模によって変わり、手続き終了までにはかなりの時間がかかる
- 市街化調整区域で農地転用するには、転用許可申請が必要