2020年11月13日公開
2020年11月13日更新
駐車場経営を法人化するメリット・デメリットを解説!節税効果を個人事業と比較
駐車場経営を法人化して行うメリット・デメリット、税効果についての法人経営と個人事業の違いについて詳しく説明します。法人化をするとどのような効果が生まれるのか、その効果は自分にとっても必要なことかを検証することで、法人化の適切なタイミングがつかめると思います。
駐車場経営の法人化とは
「駐車場経営の法人化」とは、駐車場経営をするための法人(おもに株式会社や合同会社)を設立し、個人所有の土地を法人に賃貸または譲渡して、法人にて各種契約の締結、収入の受け取り、費用の支出などを行うことをいいます。通常、当初の出資者が代表取締役や代表社員となって、駐車場経営を行います。
以前は株式会社などの設立について最低資本金の制度があったために気軽に法人を設立できるものではありませんでした。しかし現在ではそのような規制はないために、設立費用や当面に必要となる費用のみを資本金として入金して法人を設立する、ということも可能になりました。
そのため、起業家がスタートアップの当初から会社を設立したり、富裕層の資産管理会社として会社を設立したりすることが頻繁に行われるようになりました。
駐車場経営を法人化するメリット
よく資産運用の一環として不動産を活用するときに、独自の資産管理会社を設立し、法人に資産を所有させて運用することがあります。駐車場経営においても法人化している方も多く見受けられます。それは次に述べるようにいろいろなメリットが享受できるからです。
①所得税の節税効果が期待できる
まずわかりやすいメリットとしては、駐車場経営の収入にもよりますが、法人のほうが所得税・住民税等の税金が安いということが挙げられます。特に所得税の税率が個人と法人とで異なるために、所得税の節税効果が期待できるのです。
節税効果を個人事業と比較
それでは、個人と法人とでどのぐらい税率が違ってくるのかをみていきましょう。個人所得税の場合、税率は「累進課税」です。
課税される所得金額 | 所得税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
最高税率は45%ですが、これに住民税10%が加わって最高税率は55%となります。つまり、駐車場経営のみで4,000万円以上の収入がある場合には、4,000万円以上の部分については最高税率がかかります。
また、駐車場経営以外に給与所得や不動産所得、他の事業所得などがあり、4,000万円をこえている場合には、駐車場経営をスタートさせても、最高税率の55%が所得税・住民税がかかってしまうということになります。
一方、法人の場合、税率は実効税率(法人所得税、法人住民税、事業税などを合算した税金が法人所得に対してどれぐらいのパーセンテージになっているかをあらわしたもの)を用いて計算するのが一般的です。法人税の実効税率はおおむね30.62%です。いかに法人のほうが税率が低いかがわかると思います。
駐車場経営の法人化を検討するタイミング
個人と法人の税率の比較から、個人の総合課税の合計所得(給与収入、不動産所得、事業所得など累進課税が適用される所得の合計)がそれほど高くなければ節税効果がありません。
その境目は課税所得が9,000,000円以上となったときです。この水準まで所得が上がってくると税率は住民税と合わせて43%となり、法人税の実効税率を超えてきます。このような場合は法人化を検討したほうが良いということになります。
②相続税対策を講じられる
自分の所有土地を利用して駐車場経営を行うことで、相続税評価の特例である「小規模宅地の評価減」が適用できる場合があります。適用されれば、貸付事業用宅地として、200㎡までの部分について評価額が50%になります。
このような相続税評価額に関する評価減については、いくつかの条件はあるものの、大方個人でも法人でも同様の効果を享受することができます。
さらに法人化して駐車場経営を行うことで、以下の項目で紹介するように相続人に駐車場経営の収入を移転することが容易になります。財産を相続が発生する前にスムーズに推定相続人たる子や孫に移転することにより、課税される相続財産が減少することで相続税対策になります。
③相続時に資産を分割しやすくなる
駐車場経営を法人化するときに、土地を法人に譲渡すれば、相続が生じた際の相続財産は土地ではなく株式になります。土地のままでは売却して換金するかあるいは、分筆して登記しなおさなければ資産分割ができません。
しかし、株式にすることで複数の相続人に同額の、あるいは任意の割合で株式を引き継ぐことができ、資産の分割が容易になります。
④役員報酬により所得を移転できる
駐車場経営を法人化して相続対策をするときの効果として最も期待しているのが、所得の移転です。駐車場経営を個人で行うと、その収入は個人が収受するために、相続が起こった場合には相続税の対象になります。せっかく土地活用で収益アップをしたのに相続税として国に徴収されてしまうのでは活用の効果は半減してしまいます。
相続対策には、納税対策、相続税対策、争続対策(遺族の争い防止)の3つがあります。相続人である子や孫を法人の役員に就任させ、役員報酬を支払うことで資産を円滑に相続人に移転することができ、相続人は納税に必要な資金を貯蓄することができます(納税対策)。
また、資産を移転することで、相続税課税評価額を押し上げるはずだった駐車場収入が課税評価額から外れることになり、結果相続税額が減少することになります。
⑤経費の範囲が広がる
法人化すると、個人では税務上必要経費として計上できなかったものも法人では損金計上できる項目があります。
よく違いとして挙げられるのが、家族に給与や退職金を支払う場合です。法人の場合、家族への給与や退職金は、業務に見合った適正額ならば損金として計上されます。一方個人事業主の場合には、給与を必要経費として支払う場合には事前に税務署への届け出が必要です。退職金は必要経費として計上できません。
加えて、福利厚生費や出張時の出張手当も認められにくいことがあります。さらに、法人のほうが節税対策の方法の種類が豊富です。代表的なものが生命保険です。最近ではかなり生命保険を利用した節税方法についても国税庁や金融庁のメスが入り商品が限定されています。
生命保険料の全額を損金として計上することは難しくなっていますが、一定額の生命保険料を損金計上できるというメリットは大きいです。個人の場合は、確定申告や年末調整の際の生命保険控除のみの適用にとどまります。
⑥繰越欠損金の繰越期間が伸びる
繰越欠損金とは、税務上の赤字のことです。税務会計上必要経費(損金)として計上される減価償却費などのために、収入が支出を上回っていても、税務上は赤字になるケースがあります。青色申告をしている個人事業主はその年に生じた損失を以降3年間にわたって繰り越すことができます。
したがって、翌年が税務上黒字であった場合には、前年度の赤字と相殺されて所得税額が安くなりますが、以降3年間で赤字分を使い切ることができなかった場合には4年目に持ち越すことはできません。
一方法人の場合には、その年に生じた欠損金は10年間にわたって繰り越すことが可能であるために、法人のほうが税務上有利といえます。しかし、控除限度額はその繰越控除前の法人所得金額の50%が限度とされています。
⑦自身の認知症対策にもなる
自身が万が一認知症になってしまった場合、個人経営だと、書類がどこにあるのかがわからない、事業用銀行口座にある預金を容易に引き出すことができないなど、業務に支障が生じる場合があります。法人化しておけば、口座管理や重要書類の提出などは本人でなくても法人の役員や従業員であれば代わりにできます。そのため、駐車場経営を滞りなく円滑に行うことができるのです。
法人化すると、自身に代表取締役としての責任が生じるために生活に緊張感が生まれると同時に事務がやや複雑になるために自身の認知症の防止にもなる、という副次的効果もあります。
⑧退職金制度や社会保険制度を利用できるようになる
退職金や社会保険など、法人でないと利用が難しい税制や制度が利用できるようになるのは大きなメリットです。退職金税制の利用について理解するためには、まず退職金を活用した所得税対策がなぜ行われるのかを理解する必要があります。
冒頭で、個人所得税の累進課税のほうが法人税より高いために法人に収入を入金させたほうが得だという話をしました。しかし、法人口座にある預金は個人が自由に使えるものではありません。個人が自由に使うためには給与・役員報酬等で受け取る必要があり、結局給与・役員報酬等を受け取った年に累進課税の所得税がかかってしまうのです。
この問題を解決するのが「退職金」です。給与・役員報酬で個人が受け取るとそのまま総合課税されますが、退職金については退職後の生活を守るという趣旨で、特別な控除額が設定されています。その結果、退職所得でもらったほうが給与所得でもらうよりも格段に税額が低くなるのです。
これが、法人に収入を貯めておく最大の理由です。このほか、厚生年金や労災保険などの社会保険についても、法人のほうが充実しているために、従業員が多くなってきた場合などは法人のほうが安心感はあるでしょう。
駐車場経営を法人化するデメリット
このように駐車場経営を法人化することにはさまざまなメリットがありますが、反面、デメリットもあります。
①法人の設立や維持に費用がかかる
一番のデメリットは、法人の設立や維持に費用がかかることです。株式会社の設立は通常司法書士にお願いすることになりますが、司法書士報酬のほか、登録免許税、定款認証費用など合わせて30万円前後の費用がかかります。
また、税務署にも開業に合わせていろいろな書類を提出しなければならないために顧問税理士にお願いすることになります。顧問税理士には月々の顧問料のほか、決算申告費用も支払います。これも年間合計で70万円ほどは見込んでおく必要があります。
税務面でも、法人が赤字であったとしても、住民税の均等割額として、7万円程度の住民税の納税をしなければなりません。このように、個人事業主であったときにはそれほどかからなかった費用がかかってくるのです。
②事務作業が複雑化する
法人を経営すると、決算に向けて会計帳簿をきちんとつけなければならなくなります。個人の白色申告に比べれば格段に事務が複雑化します。青色申告をしていた個人事業主であれば複式簿記にも慣れていると思いますが、法人会計になると、個人の時にはなかった仕訳があったり、小口現金や借入金の扱いなど手間のかかる事務が増えたりと、何かと事務作業が複雑になりがちです。
③役員を改選する手間が発生する
株式会社の役員には任期が決まっています。任期が満了した場合には、役員改選の手続きとして、株主総会議事録を作成し、重任登記をする必要があります。なにも変わっていないのに、司法書士に登記の依頼をしなければならず、そこで手間と費用が発生します。また自身が役員を退任したときにも退任登記が必要です。
駐車場経営が法人化に適さない理由
駐車場経営の法人化について様々なメリット・デメリットを紹介してきましたが、実際のところ、駐車場経営の法人化したほうが個人の場合よりも費用対効果が高い、という人はそれほど多くはありません。それは、以下のような理由によるものです。
①節税効果がそれほど期待できないため
所得税について法人化の税務メリットが大きくなるのは、駐車場経営によって収入が数千万円増加したり、従業員を雇わなければならなくなったりするなど、大規模な経営となる場合です。多くの場合、数か所の駐車場経営のみですので、そこまで所得税の節税メリットを考慮しなくてもよいケースがほとんどです。
また、相続税についても、小規模宅地の評価減などの相続税評価減が取れることは個人・法人はそれほど変わらないですし、財産の移転についても、大規模な駐車場経営の場合でなければ、その効果はそれほど大きくはありません。
②経費の金額が少ないため
法人化すると、個人の時に必要経費として挙げられなかった支出が税務上損金計上できるということがあります。しかし、駐車場経営の場合、そもそも経費項目・金額が少ないために、損金計上のメリットも大きくはありません。
マンション経営では法人化を検討すべき
これに対して、同じ土地活用でもマンションを建設して経営する場合には法人化を検討すべきです。マンション経営の場合には、建物を建設するために多額の借入を行うため、事業規模も大きくなりがちです。多くの収入と多くの支払先があり、個人事業の範囲内で経営するよりも、法人事業として分けて取扱ったほうがすっきりします。
駐車場経営を法人化する流れ
自身の駐車場経営を今までの説明に従って検討してみると、事業規模が大きい、収入が大きい、相続税対策が必要だということが判明したら、法人化を検討することになります。法人化をする際には、①法人の設立手続きを行う、②事業の法人への引継ぎ・名義変更を行う、③法人としての駐車場経営を開始する、という流れで行います。
①法人の設立手続きを行う
まず、法人を設立します。法人としてよく利用されるのは、株式会社と合同会社です。合同会社とは、以前、有限会社と呼ばれていた会社形態について、最低資本金制度を撤廃するなどいくつかの改正を行ったのをきっかけに呼び名を改めたものです。
設立手続きは、会社の定款の作成から始まります。会社の所在地、事業内容、役員の人数、資本金の額など重要な事項を定めたものです。通常は司法書士と相談しながら記載事項を定めていくことになるでしょう。
また、現在は脱ハンコ化の流れが加速していますが、会社の実印、契約印も早めに発注しておきます。今後、口座開設、各種書類の提出の際に社印が必要になってきます。司法書士は公証人役場で定款の認証手続きを行った後、会社設立に必要な登記申請書その他添付書類を揃えて、法務局で登記の申請をします。
同時に銀行口座の開設を依頼します。幽霊会社設立や犯罪に使われる会社の設立を防止するために、会社設立時の銀行口座の開設はひところよりも厳格な手続きになりました。場合によっては1か月近くの審査期間を要した例もあるほどです。
この点については、顧問税理士を通じて口座を開設してもらうとスムーズに事が進む場合が多いようです。手続き開始から、登記完了、口座開設まで3週間から1か月程度を見込んでおく必要があります。法人開設に伴い、個人事業主としての事業を終了するのであれば税務署に廃業届を提出します。
また、法人としての事業を開始するので、法人設立届出書など関連書類を税務署に提出します。この点については、顧問税理士に書類の作成を依頼します。
②法人への引き継ぎ・名義変更を行う
開業に関する手続きが終わったら、いよいよ駐車場経営に関する契約関係の引継ぎを行います。法人を設立する前に、まずは駐車場運営代行会社や不動産屋に法人化する旨を伝え、法人化のための手続きについて相談しておいた方がよいでしょう。
運営会社や不動産屋はこのようなケースは何度か経験しているはずですので、法人設立に合わせて、必要書類を調えてくれるはずです。主な書類は個人との解約の覚書等と新たな運営委託契約書です。書類に問題がなければ、契約関係を更改して法人との契約に改めます。
もう一つ忘れてはならないのが、土地に関する契約を締結することです。設立した法人が駐車場経営を行うためには、法人が土地に関する何等かの利用権を有していなければなりません。現在、土地の所有権は個人にあるために、土地の賃貸借契約や売買契約を締結する必要があります。
売買契約となると、売却価格を市場価格に設定しないと税務上の問題が発生してきますし、売買金額相当額の多額の資本金を法人に入金する必要があります。そうすると、税務上中小企業に適用される様々な特例が受けられなくなるなどのデメリットが生じる可能性があります。
この点については、税理士と相談しながら進めていった方がよいでしょう。法人が土地を賃貸して駐車場経営を行うほうが一般的だと思います。土地賃貸で行う場合には、賃料をいくらにするかが問題になってきます。通常、固定資産税額の数倍程度で設定する場合が多いようです。
あまりにも安い場合には贈与税認定のリスクがあります。また、細かいですが、土地賃貸に関わる権利金の授受をしない場合には、「無償返還の届出書」という書類をあらかじめ税務署に届け出ておくことで、権利金に関する税務トラブルを避けることができます。この点についても顧問税理士と相談しながら進めていくとよいでしょう。
また、土地を売買するにせよ、賃貸するにせよ、登記手続きが発生します。賃貸の場合は賃借権登記をしない場合も多いですが、権利関係を明確にしておくためには登記しておくことも一つの方法です。
③法人として駐車場経営を開始する
上記手続きのすべてが完了して初めて駐車場経営を開始します。個人経営から会社経営になり、すべての手続きを会社で行うために最初は慣れない点もあるでしょうが、各種専門家の助けを借りながら経営していきます。特に法人の資金と個人の資金との混同には気を付けましょう。
まとめ
駐車場経営を法人化することで生じるメリットはたくさんありますので、一度は法人化のことも検討する機会はあるかもしれません。しかし、そのメリットのほとんどは専門的な税務会計や法務の知識が絡んできますので、顧問税理士などの専門家の意見を参考にしながら検討すべきです。
そのうえで、法人化の必要なければ無理に法人を設立する必要はありません。所得税や法人税、そして相続対策に関するメリットが大きいと感じるようであれば、専門家に相談して法人化の検討をすることをお勧めします。