2025年10月08日公開
2025年10月08日更新
短期譲渡所得とは?税率・計算方法・節税のポイントなどを解説
不動産などの売却時に避けて通れないのが「譲渡所得」に関する税金です。特に、所有期間が5年以下の場合に課税される「短期譲渡所得」は、長期譲渡所得よりも税率が高くなりがちです。 そこで今回は、短期譲渡所得の定義や長期譲渡所得との違い、税率や計算方法を解説します。さらに、3,000万円特別控除や損益通算などの節税ポイント、確定申告の流れや必要書類、よくある質問まで網羅しています。

短期譲渡所得とは?
短期譲渡所得とは、所有期間が5年以下の不動産や土地を売却した際に得られる所得のことです。譲渡所得の一種で、長期譲渡所得に比べて課税負担が重くなるのが特徴です。
なお、所有期間の判定は「購入日から」ではなく、「取得した年の翌年1月1日から」起算されます。たとえば、2020年12月に物件を取得し、2025年1月に売却した場合、実際には5年以上所有していたように見えても、税法上は「5年以下」と判定され、短期譲渡所得に分類されます。
譲渡所得は、所有期間に応じて「短期」と「長期」に分けられ、それぞれ課税ルールが異なります。まずは、短期譲渡所得の基本的な仕組みと、長期譲渡所得との違いを見ていきましょう。
短期譲渡所得の定義と基本ルール
短期譲渡所得とは、取得から5年以下の不動産や土地を売却した際に発生する所得です。短期間での売却は、投機的な取引とみなされやすく、税率が高く設定されています。
特に、売却益が大きい場合は課税額も高額になるため、事前の確認が欠かせません。
ここで注意したいのが、所有期間の数え方です。単純に「購入から売却までの年数」ではなく、「取得した年の翌年1月1日から起算して5年を超えているかどうか」で判断されます。そのため、実際には5年以上所有していたつもりでも、税法上は「5年以下」と扱われるケースがあるのです。
こうしたルールを知らずに売却してしまうと、予想以上の税負担が発生することもあるため、事前に仕組みを理解しておくことが大切です。
短期譲渡所得と長期譲渡所得との違い
譲渡所得は、所有期間によって「短期」と「長期」に分けられ、それぞれ課税の仕組みが異なります。
具体的には、売却した年の1月1日時点で、土地や建物の所有期間が5年を超えていれば「長期譲渡所得」、5年以下であれば「短期譲渡所得」に分類されます。
短期譲渡所得は、長期に比べて税率が高く、課税負担が重くなる点が特徴です。次章では、具体的な税率やシミュレーションについて詳しく解説していきます。
参照:国税庁|土地や建物を売ったとき
短期譲渡所得の税率
税率はどのように決まるのか、長期譲渡所得との違いは何か、実際にどのくらいの税負担になるのかなど、理解しておくべきポイントは多いです。
所得税・住民税を合わせた短期譲渡所得の税率
短期譲渡所得にかかる税率は、所得税30%と住民税9%を合わせて39%となります。さらに、復興特別所得税(所得税額の2.1%)も加算されるため、実際の負担はやや増える点に注意が必要です。
所有期間が5年以下の場合はこの高い税率が適用されるため、売却益が大きいほど税負担も重くなります。例えば2,000万円の利益が出た場合、課税額だけで700万円を超えるケースもあり、売却後に手元に残る金額が大幅に減ってしまうことも珍しくありません。
そのため、短期譲渡所得に該当する売却では、事前に税額をシミュレーションしておきましょう。
参照:国税庁|土地や建物を売ったとき
参照:国税庁|個人の方に係る復興特別所得税のあらまし
長期譲渡所得と比較した場合の税負担の違い
短期譲渡所得と長期譲渡所得では、税率が異なります。
短期は合計39%と高額なのに対し、長期譲渡所得は「所得税15%+住民税5%の合計20%」で済みます。ほぼ半分の水準になるため、同じ売却益でも税金額に大きな差が発生するため、注意しましょう。
例えば、1,000万円の売却益を得た場合、短期譲渡所得なら約390万円、長期譲渡所得なら約200万円の課税となり、その差は190万円にものぼります。この違いは売却益が大きくなるほど影響が拡大するため、売却時期の選択は資金計画に直結するといえるでしょう。
あと数か月待てば長期に切り替わるような場合には、売却を先延ばしすることで数百万円規模の節税につながる可能性もあるため、事前に確認をしておきましょう。
参照:国税庁|土地や建物を売ったとき
短期譲渡所得の計算方法
短期譲渡所得に該当する不動産などの売却では、課税額を求めるために正しい計算方法を理解しておくことが重要です。計算の流れ自体は長期譲渡所得と同じですが、適用される税率が高いため、実際に計算してみると負担の大きさが実感できるでしょう。
ここでは、基本の計算式と具体的な例を用いてわかりやすく解説します。
譲渡所得の基本計算式
譲渡所得は、次の計算式で求められます。
譲渡所得=譲渡価格-(取得費+譲渡費用) |
それぞれの項目について簡単に説明します。
- 譲渡価格:売却した金額(売買契約書に記載された金額など)
- 取得費:購入時にかかった費用(購入代金・仲介手数料・登記費用など)。建物の場合は、減価償却費を差し引いた金額になります。
- 譲渡費用:売却時にかかった費用(仲介手数料・測量費・解体費・印紙代など)
なお、取得費が不明な場合は「概算取得費」として譲渡価格の5%を用いることも可能です。ただし、実際の取得費を証明できる場合に比べて課税額が高くなる傾向があるため、領収書や契約書などの資料はできるだけ保管しておくのがおすすめです。
参照:国税庁|土地や建物を売ったとき
参照:国税庁|No.3258 取得費が分からないとき
短期譲渡所得に当てはめた計算例
例えば、2,000万円で購入した不動産を2,500万円で売却したケースを考えてみましょう。売却時に仲介手数料など100万円の譲渡費用がかかった場合の計算式は、以下の通りです。
- 譲渡価格:2,500万円
- 取得費:2,000万円
- 譲渡費用:100万円
譲渡所得=2,500万円-(2,000万円+100万円)=400万円 |
この不動産の所有期間が5年以下であれば、「短期譲渡所得」として扱われ、税率は39%(所得税30%+住民税9%)が適用されます。
つまり、課税額は 【400万円 × 39% = 156万円】となり、手元に残る利益は【244万円】です。
このように、同じ売却益でも所有期間によって課税額が大きく変わるため、事前にシミュレーションしておくことが大切です。
短期譲渡所得を節税するためのポイント
ここからは、短期譲渡所得を節税するためのポイントを3つ解説します。
- マイホーム売却で使える3,000万円特別控除
- 譲渡損失との損益通算・繰越控除
- 所有期間を延ばして売却
①マイホーム売却で使える3,000万円特別控除
居住用財産を売却した場合に適用できるのが「3,000万円特別控除」です。
これは短期譲渡所得にも利用可能で、課税所得から最大3,000万円まで差し引くことができます。売却益が3,000万円以内であれば課税額は0円のため、効果の大きい特例です。
ただし、適用には「自分が実際に住んでいた住宅であること」や「過去2年以内に同じ特例を利用していないこと」、「親族などへの売却ではないこと」など複数の条件があります。
要件を満たしているかどうかを事前に確認し、必要書類を揃えて確定申告をすることが重要です。条件をクリアできれば、短期譲渡所得でも大幅な節税につながるでしょう。
参照:国税庁|No.3302 マイホームを売ったときの特例
②譲渡損失との損益通算・繰越控除
不動産などの売却は必ずしも利益ばかりではなく、損失が出る場合もあります。こうしたときに利用できるのが「損益通算」と「繰越控除」です。例えば、マイホームを売却して損失が出た場合、その損失を給与所得や事業所得と相殺して税額を減らすことができます。
さらに、当年で控除しきれなかった損失は、最長3年間繰り越して控除することが認められています。これにより、翌年以降の所得税や住民税の負担を抑えられます。
売却益が出た場合だけでなく、損失が出たときも確定申告を行い、節税制度を最大限に活用することが大切といえるでしょう。
参照:国税庁|No.3382 マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の順序
③所有期間を延ばして売却
短期譲渡所得は所有期間が5年以下の場合に適用されますが、5年を超えると長期譲渡所得となり、税率は20%前後に下がります。つまり、あと数か月待つだけで課税額が半分程度になるケースもあるのです。
例えば、1,000万円の売却益では、短期譲渡所得だと約390万円の課税額になりますが、長期譲渡所得に切り替われば約200万円に減少します。この差は190万円と非常に大きく、売却益が高額になるほど影響も拡大するため、注意しましょう。
もし売却を急がなくてもよい場合は、所有期間を確認し、5年を超えてから売却することが有効な節税対策といえます。
短期譲渡所得の確定申告の流れ
短期譲渡所得に該当する不動産などを売却した場合は、原則として確定申告が必要です。特に、短期譲渡所得は課税額が大きくなるため、申告漏れや書類不備があると追徴課税につながる可能性があるため、注意が必要です。
ここでは、確定申告が必要となるケースや必要な書類、申告時の注意点を確認しておきましょう。
確定申告が必要になるケース
不動産などを売却して利益が出た場合には、たとえ給与所得者であっても確定申告を行う必要があります。短期譲渡所得は給与や事業所得とは切り離して計算されるため、会社員でも申告が免除されることはありません。
一方で、マイホームを売却して3,000万円特別控除を適用した結果、課税額が0円になるケースであっても、特例を受けるためには必ず申告が必要です。また、売却によって損失が発生した場合も、損益通算や繰越控除を利用するためには申告が欠かせません。
必要書類
短期譲渡所得の確定申告では、以下のような書類を準備する必要があります。
- 売買契約書
- 売却時の領収書や仲介手数料の明細
- 登記費用や測量費用など、譲渡費用を証明できる書類
- 不動産の取得費を証明する書類
- 住民票やマイナンバーカード など
これらをもとに、譲渡価格から取得費・譲渡費用を差し引いて、所得を計算します。
特例や控除を受ける場合には、適用条件を満たすことを証明できる追加書類も必要になるため、事前に国税庁の案内や税務署などで確認しておくと安心でしょう。
申告の期限と注意点
確定申告の期限は、原則として翌年の2月16日から3月15日までです。この期間内に申告を行わないと、延滞税や無申告加算税が課される可能性があります。なお、令和7年度分の所得税等の申告期限は、令和8年2月16日から令和8年3月16日までです。
また、短期譲渡所得は税率が高いため、課税額が数百万円単位になることも珍しくありません。事前に納税資金を確保しておくことや、控除や特例を正しく活用することが重要です。
売却時期や所有期間の判定を誤ると、思わぬ税負担につながりかねないため、不安がある場合は税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
参照:国税庁|申告と納税
短期譲渡所得に関するよくある質問
最後に、短期譲渡所得に関するよくある質問に回答しますので、不動産などの売却を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
短期譲渡所得の税率はいくらですか?
短期譲渡所得の税率は、所得税30%と住民税9%を合わせて39%です。さらに、復興特別所得税(所得税額の2.1%)が加算されるため、実際の負担はもう少し増える点に注意しましょう。
これは長期譲渡所得(20%程度)と比べて約2倍に相当し、同じ売却益でも課税額に大きな差が出るのが特徴です。売却額が大きくなるほど税負担も重くなるため、必ず事前にシミュレーションを行いましょう。
参照:国税庁|土地や建物を売ったとき
参照:国税庁|個人の方に係る復興特別所得税のあらまし
短期譲渡所得のメリット・デメリットは何ですか?
短期譲渡所得のメリットは、売却益が出れば短期間で資金化できる点です。例えば、投資用不動産を購入後すぐに価格が上昇した場合は、短期で売却すればまとまった利益を早期に確保できます。
デメリットは、税率が高く課税額が大きい点です。同じ売却益でも長期譲渡所得に比べて税負担は約2倍になるため、実際に手元に残る金額は大きく減ってしまいます。
売却タイミングによっては数百万円単位で差が出るため、計画的な判断が不可欠といえるでしょう。
短期譲渡所得の特別控除額はいくらですか?
短期譲渡所得そのものに対して特別な控除額が設定されているわけではありません。ただし、マイホームの売却であれば「3,000万円特別控除」を利用できます。この特例は短期譲渡所得でも適用ができ、課税対象額から最大3,000万円を差し引けるため、大きな節税効果が期待できるでしょう。
ただし、適用するためには、実際に居住していた住宅であることや過去2年以内に同じ特例を利用していないことなどの条件があります。売却予定の物件がマイホームに該当する場合は、事前に条件を確認してから申告を行いましょう。
参照:国税庁|No.3302 マイホームを売ったときの特例
まとめ
短期譲渡所得は、所有期間が5年以下の不動産や土地を売却した際に課税される所得であり、長期譲渡所得よりも税率が高く、大きな税負担につながる可能性があります。所有期間の起算日や税率の仕組みを理解しないと想定外の課税を受ける場合もあるため、注意が必要です。
一方で、マイホーム売却の3,000万円特別控除や損益通算・繰越控除、さらには売却時期を調整して長期譲渡所得に切り替えるなど、節税につながる方法も存在します。売却益や所有期間によって最適な判断は異なるため、事前にシミュレーションを行い、必要に応じて専門家へ相談することがおすすめです。
不動産などの売却は大きな資金が動く取引だからこそ、短期譲渡所得に関する基本知識を押さえておくことが、手取りを最大化するための大事な要素の一つといえるでしょう。
将来的な資産活用を考える方は、売却だけでなく「運用」という選択肢も視野に入れてみてはいかがでしょうか。 土地や空きスペースの活用に興味がある方は、駐車場経営もおすすめです。
※本記事は可能な限り正確な情報を元に制作しておりますが、その内容の正確性や安全性を保証するものではありません。引用元・参照元によっては削除される可能性があることを予めご了承ください。また、実際の土地活用についてや、税金・相続等に関しては専門家にご相談されることをおすすめいたします。