2025年11月19日公開
2025年11月19日更新
賃貸経営とは?仕組みや4つの種類、メリット・デメリットも解説
賃貸経営は、安定した家賃収入で資産形成を目指せる一方、仕組みや収益構造などの理解が不十分だと、思ったほど利益が出ない事態になりかねません。表面利回りだけでの判断や空室・修繕・金利などのコストを見落すと、キャッシュフローが想定とズレる可能性もあるでしょう。 そこで今回は、賃貸経営の定義や代表的な4種類、メリット・デメリットなどを解説します。実際に賃貸経営を始める際の4STEPも紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。

賃貸経営とは?
賃貸経営は、不動産を入居者に貸し出して家賃収入を得る事業です。株式配当のように継続的な収益を生む資産運用であり、資産形成やキャッシュフローの安定に直結します。ただし、物件を購入して貸すだけで完結するわけではありません。空室や家賃水準、運営コスト、金利などが収益を左右するため、収益性を適切に判断し、資金計画の精度を高めることが不可欠です。
まずは賃貸経営の意味や重要性などを理解するために、定義や仕組み、収益構造を順に確認していきましょう。
賃貸経営の定義・仕組み
賃貸経営は、オーナーが保有する建物や部屋を入居者に貸し出して家賃収入を得る事業です。
物件取得から入居者募集、賃料回収、建物維持管理、退去対応、売却や再投資までが一連の流れであり、運営方法は自主管理、管理会社への委託などが中心です。自主管理はコストを抑えやすく意思決定が速い、管理会社への委託は手間を減らして拡大しやすいなどの特徴があります。
契約形態は普通借家契約と定期借家契約が一般的で、前者は長期安定を狙いやすく、後者は期間満了時の終了や用途変更に柔軟です。立地、ターゲット設定、賃料設定、管理体制、資金計画の整合を取ることが、収益の安定化には不可欠といえるでしょう。
賃貸経営の収益構造
賃貸経営の収益は家賃収入から空室や滞納による目減りと運営費を差し引き、借入返済や税金を考慮して最終的なキャッシュフローに至ります。
代表的な指標は、以下のとおりです。
| 満室想定収入(GPI) | 家賃+共益費+駐車場などの付帯収入+更新料や礼金など |
| 実効総収入(EGI) | GPI−空室損・滞納損−募集費用の一部など |
| 営業純利益(NOI) | EGI−運営費(管理委託料、修繕、共用電気水道、保険、固定資産税・都市計画税など) |
| 税引前キャッシュフロー(BTCF) | NOI−年間返済額 |
| 税引後キャッシュフロー | BTCF−法人税や所得税など+減価償却の節税効果 |
収入は家賃や共益費に加え、駐車場、自販機、Wi-Fi使用料などを組み合わせます。費用は広告費や修繕費、保険や税金、金利上昇リスクなどを織り込み、無理のない返済計画を組みましょう。
主な賃貸経営の4種類
ここからは、主な賃貸経営の4種類を紹介します。
- 賃貸マンション経営
- アパート経営
- 戸建て賃貸経営
- 賃貸併用住宅
1. 賃貸マンション経営
賃貸マンション経営は、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造の中高層物件が中心であり、耐久性が高く設備グレードも上げやすい点が特徴です。
初期投資は大きい反面、駅近や都心部では賃料水準が安定しやすく、長期の賃貸経営向きといえます。一棟保有は意思決定の自由度が高く、区分保有は少額から始めやすい反面、管理組合の方針などに左右されやすいといえるでしょう。
大規模修繕費や共用部の維持コストを長期計画に織り込み、賃料設定と入居者属性の設計で稼働率を維持することが重要です。
2. アパート経営
アパート経営は、木造や軽量鉄骨造の2〜3階建てが一般的であり、建築コストを抑えやすく利回りを確保しやすい点が強みです。
郊外や地方でも賃貸需要が見込めるエリアを選べば、賃貸経営の入り口としてバランスが良い選択になるでしょう。一方で遮音や断熱、設備グレードに対する入居者の目が厳しくなっており、原状回復と募集条件の最適化が欠かせません。
修繕周期はマンションより短くなる傾向があるため、積立と長期修繕計画を早期に整備することがおすすめです。
3. 戸建て賃貸経営
戸建て賃貸経営はファミリー向け需要を取り込みやすく、入居期間が長くなる傾向があるため、空室回転の手間を抑えられる点が特徴です。
庭や駐車場などの付加価値で賃料単価を確保しやすく、学区や生活利便の良い立地では安定運営が期待できるでしょう。ただし、一戸空室になると収益インパクトが大きく、退去時の原状回復費も高額になりがちです。
将来は自己利用や売却など出口の柔軟性が高い一方、近隣クレーム対策やメンテナンス範囲の明確化が重要といえるでしょう。
4. 賃貸併用住宅
賃貸併用住宅は、自宅の一部を賃貸に回すタイプで、家賃収入で実質居住コストを圧縮できる点が魅力です。
条件を満たせば住宅ローンを活用できる場合があり、初期負担を抑えつつ賃貸経営を始められます。入居者との動線や騒音、プライバシーに配慮した設計が重要で、賃貸部分の収支と自宅部分の家計を分けて管理する体制が不可欠です。
将来は賃貸比率の変更や完全賃貸化、自己居住面積の拡張など柔軟にプラン転換できる反面、空室時の負担増や管理の手間を見越した計画が求められるでしょう。
賃貸経営のメリット
ここからは、賃貸経営のメリットとして、以下の5つを紹介します。
- 安定収入でキャッシュフローを確保しやすい
- 幅広いエリアに需要がある
- 現物資産でインフレヘッジになる
- 節税効果が見込める
- 管理委託で手間を抑えやすい
安定収入でキャッシュフローを確保しやすい
賃貸経営では、毎月の家賃収入がベースになるため、入居率と賃料単価を維持できれば、安定したキャッシュフローを見込みやすいです。
具体的には、戸数を分散させることで空室の影響を平準化でき、駐車場やWi-Fi使用料などの付帯収入を組み合わせれば、変動にも強くなるでしょう。
返済計画は、DSCR(※)などの指標で余力を確保し、突発費用などに備えた内部留保を積み上げると安定性が高まります。
※DSCR(Debt Service Coverage Ratio):元利金返済カバー率
| DSCR =(営業利益 + 減価償却費)÷(元金返済額 + 支払利息) |
幅広いエリアに需要がある
賃貸経営では、駅近の単身向けから郊外のファミリー向けまで、ターゲットを設計すれば幅広い市場で需要を取り込めます。
具体的には、立地や周辺施設、学区、雇用環境などの需要要因を見極め、物件スペックと募集条件を合わせることで稼働率の底上げにつながるでしょう。
さらに、入居者層を分散させると景気変動や季節性の影響なども受けにくくなります。
現物資産でインフレヘッジになる
賃貸経営における土地と建物は実物資産であり、建築コストや賃金の上昇が続く局面では、賃料などに上方圧力がかかりやすい傾向があります。
しかし、長期固定金利で運用をしていれば、賃料の伸びに対する返済額が相対的に軽くなる効果も期待できるでしょう。
物件の維持管理と価値向上策などを継続することで、インフレ環境下であっても収益性を維持しやすい経営方法の一つといえます。
節税効果が見込める
賃貸経営に必要な減価償却費や借入利息、管理費、固定資産税などを必要経費として計上でき、課税所得を圧縮できます。
さらに、青色申告制度を活用すれば、特別控除や損益通算の取り扱いが広がり、資金繰りの安定にもつながりやすいでしょう。
制度は変更される可能性があるため、具体的な適用可否は専門家に確認すると安心です。
参照:No.2070 青色申告制度|国税庁
管理委託で手間を抑えやすい
賃貸経営では、入居者募集、賃料回収、クレーム対応、点検や修繕の手配までを管理会社に委託することで、オーナーの稼働を大きく減らせます。
例えば、報告体制や原状回復の基準、緊急対応の範囲、手数料と成果指標を事前に契約で明確にすれば、遠隔や複数物件でも運営品質を担保できるでしょう。
また、空いた時間を投資判断や資産入替の検討に振り向けられる点もメリットといえます。
賃貸経営のデメリット
賃貸経営にはさまざまなメリットがありますが、以下のようなデメリットも把握しておくことで、想定外のトラブルなどの回避につなげやすいでしょう。
- 空室・家賃下落リスクがある
- 金利上昇による返済負担・資金繰りリスクがある
- 修繕費・原状回復など突発コストが発生しやすい
空室・家賃下落リスクがある
賃貸経営は需要と供給、築年数、立地競争などの影響を受けやすく、空室が続いてしまうと、家賃も相場に引きずられて低下する可能性があります。
稼働率の悪化は広告費などの増加にもつながるため、ターゲットの再定義、賃料や募集条件の調整、設備更新や内装の差別化などで早期に是正する体制が必要です。
中長期の需給見通しと出口戦略を事前に設計しておくと、下振れ耐性を高められるでしょう。
金利上昇による返済負担・資金繰りリスクがある
変動金利で資金調達をしている場合は、金利上昇により返済額が増え、DSCR(※)が低下して資金繰りが圧迫されかねません。
これらのリスクを抑えるためには、金利タイプや固定化のタイミング、繰上返済余力などを定期的に点検し、手元流動性と運転資金枠を確保しておくことが重要といえるでしょう。
※DSCR(Debt Service Coverage Ratio):元利金返済カバー率
| DSCR =(営業利益 + 減価償却費)÷(元金返済額 + 支払利息) |
修繕費・原状回復など突発コストが発生しやすい
賃貸経営では、設備故障や漏水、外壁や屋上の劣化などが予期せず発生し、退去時の原状回復などにも単価上昇の影響を受けやすいといえます。
対策としては、長期修繕計画と積立のルール化、内装仕様の標準化、複数事業者からの相見積もり、火災保険や設備保証の適用範囲の見直しなどが有効です。
さらに、突発費に備える予備費の確保と入替工期の短縮による機会損失の最小化などが賃貸経営の安定につながるでしょう。
賃貸経営の始め方:4STEP
賃貸経営を軌道に乗せるためにはやみくもに始めるのではなく、以下の手順のように、調査→資金調達→建築→運営の順で進めることが大切です。
STEP1:事前調査と事業計画の立案
STEP2:資金計画と融資の実行
STEP3:設計・建築と引き渡し
STEP4:賃貸経営の開始
STEP1:事前調査と事業計画の立案
賃貸経営を始める最初のステップでは、想定エリアの賃料相場や空室率、入居者ターゲット、競合物件の供給状況などを確認します。
具体的には、用途地域や建ぺい率・容積率、日影規制、駐車場条例、ハザードマップなどの法規とリスクなどを確認しましょう。新築は建築コストと工期、人気設備の要否を見極め、中古物件は劣化状況、既存入居の契約条件などを精査します。
さらに、月次収支表を作成し、基準と下振れの2シナリオでDSCR(※)と手元資金の安全性を検証することがおすすめです。長期保有、売却の出口案、修繕計画や賃料改定方針などを初期に設計しておきましょう。
※DSCR(Debt Service Coverage Ratio):元利金返済カバー率
| DSCR =(営業利益 + 減価償却費)÷(元金返済額 + 支払利息) |
STEP2:資金計画と融資の実行
次に、自己資金比率、返済期間、金利タイプ(固定・変動)、元金据置や繰上返済の方針などを決定します。
地銀や信金、政策金融、ノンバンクなど複数で条件を比較し、担保評価や手数料、違約条項などを確認します。また、個人か法人かの税務メリット、減価償却や青色申告の可否も合わせて整理しましょう。
設計図、見積、収支計画、出口想定などを揃えて与信資料の精度を高め、内諾から金銭消費貸借契約、融資実行へ進めます。火災・地震保険などの条件もこの段階で確認しましょう。
参照:No.2070 青色申告制度|国税庁
STEP3:設計・建築と引き渡し
次に、ターゲットに合う間取りと仕様を選び、断熱や遮音、防犯、ネット環境、宅配ボックスやオートロックなど賃料に直結する設備を設計しましょう。
具体的には、実施設計から見積精査、請負契約、建築確認申請、着工、各種検査、竣工の工程などを管理します。内装や原状回復の標準仕様、設備保証、長期修繕計画、竣工時のチェックリストなどを整備した上で管理会社を選定し、管理委託契約、トラブル対応フロー、退去精算ルールなども確認してください。
中古やリノベの場合は工期確認と賃貸中工事の可否、近隣調整などを事前に済ませておきましょう。
STEP4:賃貸経営の開始
竣工前から募集図面や写真、募集条件などを整理し、賃貸物件の引き渡しと同時に先行募集を開始しましょう。
その際に、入居審査、保証会社、火災保険、入退去チェックの運用などを標準化します。例えば、入居率、平均賃料、運営費率、募集日数、解約率などを月次でモニタリングし、賃料や募集条件の調整、内装アップグレード、広告の見直し、付帯収入の追加などを実施してください。
金利環境に応じた固定化や借換えを検討し、年度ごとに修繕計画と家賃改定方針、出口シナリオをアップデートしていきましょう。
まとめ
賃貸経営は、不動産を貸して家賃収入を得る資産運用であり、収益は「GPI→EGI→NOI→キャッシュフロー」の流れで把握します。物件タイプは、耐久性と賃料安定が見込める賃貸マンション、初期費用を抑えやすいアパート、長期入居が期待できる戸建て、家計と両立しやすい賃貸併用住宅の4種類が中心です。
賃貸経営のメリットは安定収入、需要の広さ、インフレヘッジ、節税効果、委託で省力化などがある一方で、デメリットとして、空室・家賃下落、金利上昇による資金繰り悪化、突発的な修繕コストなどが挙げられます。
賃貸経営を始める際は、市場調査と事業計画作成、自己資金比率や金利タイプを含む資金計画と融資の実行、ターゲットに合う設計・建築と引き渡し、募集と運営の立ち上げの4STEPで行いましょう。
なお、土地の条件や予算次第では「駐車場経営」も有力な選択肢といえます。駐車場経営は、初期投資を抑えやすく短期で立ち上げやすい点、原状回復や内装工事が不要で将来の転用もしやすい点、月極と時間貸しを組み合わせて需要を取り込みやすい点が主な強みです。
土地活用として賃貸物件案や駐車場経営案を考慮する際は、収支とリスクを数値でシミュレーションすることで管理し、収益の安定化につながるでしょう。
※本記事は可能な限り正確な情報を元に制作しておりますが、その内容の正確性や安全性を保証するものではありません。引用元・参照元によっては削除される可能性があることを予めご了承ください。また、実際の土地活用についてや、税金・相続等に関しては専門家にご相談されることをおすすめいたします。




