2024年12月05日公開
2024年12月05日更新
マスターリースとサブリースの違いは?メリット・デメリットも解説
不動産経営において、マスターリースやサブリースといった契約形態を理解することは重要です。マスターリースは、不動産投資や土地活用を行う際に、経営や管理の負担を軽減する有効な方法ですが、メリットとデメリットの両方があります。この記事では、マスターリースとサブリースの違いや関係、そしてマスターリースを利用した不動産経営の特徴について詳しくご紹介します。
目次
マスターリースとは
マスターリースとは、賃借人が転貸することを前提として物件を賃貸する方法です。マンションやアパート、駐車場などの経営では、オーナーは管理会社に委託して賃貸経営ができます。マスターリースは物件の経営を含めて一括して委託するので、一括借り上げとも呼ばれます。
マスターリース契約はオーナーとサブリース会社の間で締結される賃貸借契約です。物件の賃貸人(オーナー)をマスターレッサー、賃借人(サブリース会社)をマスターレッシーと呼ぶ場合もあります。
マスターリースとサブリースの関係
マスターリースとは、賃借人が転貸を前提として物件を賃借する方法です。賃借人であるサブリース会社は、物件を管理し、賃料収入を得ます。マスターリース契約を締結したサブリース会社が入居者を見つけて物件を貸し出す行為をサブリースと呼びます。この際、サブリース会社と入居者の間で締結される契約をサブリース契約と言います。
マスターリースによる賃貸経営全体を「サブリース事業」と呼ぶ場合もありますが、正確にはオーナーはマスターリースを行っています。サブリース会社はオーナーから物件をマスターリース契約(原賃貸借契約)で借り受け、その後入居者とサブリース契約(転貸借契約)を結んでビジネスを展開します。入居者はオーナーとは直接契約を結ばず、サブリース会社を通じて物件を利用する仕組みです。
マスターリースと管理委託との違い
不動産経営では、管理委託契約を結び、管理会社に経営の一部または全体を任せることができます。マスターリースと管理委託の大きな違いは、契約の仕組み、経営の主体、そして管理費用です。
管理委託方式では、オーナーは管理会社と管理委託契約を結び、個々の入居者と賃貸借契約を締結します。この場合、複数の契約を管理する必要がありますが、マスターリースの場合はサブリース会社との契約のみで済みます。
管理委託方式では、賃貸経営の主体はオーナーですが、マスターリースの場合、サブリース会社が入居者募集や家賃徴収などを行います。そのため、マンションやアパートの経営における空室対策の主体も、経営方法によって異なるため注意が必要です。
また、管理委託方式では入居者管理や建物管理を委託した場合の管理委託料は約5%程度ですが、サブリースでは家賃保証を受けるため、手数料が約15%前後かかります。管理費用を抑えたい場合は、手間をかけてでも管理委託方式が適しています。
マスターリース契約の種類
マスターリース契約には家賃保証型とパススルー型の2種類があります。契約の種類によって収益モデルが変わるので、ここではオーナー視点でそれぞれの違いを解説します。
家賃保証型
家賃保証型は毎月一定の賃料を得られる仕組みのマスターリース契約です。賃料保証型、空室保証型、固定型などとも呼ばれています。賃貸した不動産の経営状況によらずに、不動産自体の賃料を毎月受け取れるのが特徴です。満員御礼で大きな家賃収入を得られている場合でも、空室が多くて採算が合わないような状況でも同じ金額を毎月保証してもらえます。安全性の高い不動産投資をしたいときには家賃保証型のマスターリース契約が適しています。
パススルー型
パススルー型は賃料の状況に応じて収入が変わる仕組みのマスターリース契約です。基本的には家賃をそのままオーナーに渡し、サブリース会社は手数料を申し受けるという仕組みになっています。実績連動型とも呼ばれる契約方法で、空室率が低いときには高い収益を得られるのがメリットです。しかし、空室ができたときには家賃収入が減るため、収益の変動が大きい点に注意が必要です。
マスターリース経営と賃貸住宅管理業法の関係
マスターリースでマンションやアパートなどの賃貸住宅を経営する際には、賃貸住宅管理業法の理解が必要です。賃貸住宅管理業法は正式には「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」と呼ばれます。
この法律は、賃貸住宅のマスターリース契約(特定賃貸借契約)を通じて経営者を保護し、サブリース会社や勧誘業者の事業の適正化のための措置を定めています。賃貸住宅管理業を登録制とし、必要な業務や違反行為に対する罰則などを設けています。国土交通省では、賃貸住宅管理業法ポータルサイトを運営し、マスターリース契約事業者、サブリース会社、サブリース住宅の入居者に対して情報提供を行っています。
ここでは、賃貸住宅管理業法における規制内容を簡単にまとめました。
参照:賃貸住宅管理業法ポータルサイト - 国土交通省
参照:適正化のための措置 | 賃貸住宅管理業法ポータルサイト - 国土交通省
不当な勧誘活動の禁止
土地や建物のオーナーに対する不当な勧誘活動により、マスターリース契約に至った結果、オーナーが損害を被るリスクがあります。同法では、サブリース業者や勧誘者(不動産会社、住宅業者、金融機関、FP、不動産コンサルタントなど)が、強引な勧誘や不正確な情報による勧誘を行うことを禁止しています。主な禁止行為には、事実不告知、不実告知、保護の欠如があります。
以下のような場合には同法に抵触するため、もし不当な立場になった際には弁護士に相談することをおすすめします。
- 家賃を下げる可能性があることを伝えなかった(事実不告知)
- 借り上げ賃料の免責期間があるのに説明しなかった(事実不告知)
- 維持管理費用は当社が負担する」と伝えたが、大規模修繕費用はオーナー負担だった(不実告知)
- 契約の締結や更新について早朝や夜中に電話や訪問で勧誘した(保護の欠如)
重要事項説明等の義務の明確化
マスターリース事業者は、土地活用や不動産投資の初心者であり、専門知識を持たない場合があります。そのため、サブリース会社は契約時点で重要事項説明を行い、契約締結までに1週間程度の猶予を設けることが必要です。重要事項の説明内容は書面化されており、国土交通省のガイドラインで記載すべき内容が提供されています。
また、現代ではオンラインでの重要事項説明も可能です。オンラインでの説明は、電子メールやWebを経由して確実に伝えられるよう、ガイドラインが整備されています。
誇大広告の禁止
サブリース業者や勧誘者がマスターリースの広告を出稿する場合には、事実と著しく違う表示や、実際よりも有利と誤認させるような表示が禁止されています。例えば、以下のような誇大広告は事実と異なる部分があるので違反行為です。
- 家賃改定に触れずに「確実に家賃保証」と記載する
- 休日には受付対応しかしないにもかかわらず「24時間入居者対応」と表示する
- オーナーは正当な事由がなければ解約できないにもかかわらず「自由に契約解除可能」と表記する
誇大広告の禁止はチラシや新聞広告だけでなく、インターネットのホームページやWeb広告などにも適用されます。違反行為を発見した際に指摘する申出制度も整えられていて、申し出があった場合には監督処分等が実施されています。オーナーとしては正しい情報が記載されていると考えてマスターリース契約を検討可能です。
参照:申出制度 | 賃貸住宅管理業法ポータルサイト - 国土交通省
適用範囲
マスターリースで経営を行う際に注意が必要なのは、賃貸住宅管理業法が適用されるのは賃貸住宅のみであるという点です。オフィスビルや倉庫などもマスターリース契約で経営することができますが、同法で保護されているのは賃貸住宅のマスターリースを行うオーナーに限定されています。事業用物件の運営には同法は適用されません。土地活用でマスターリースを検討する際には、この点に十分注意が必要です。
参照:賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方
マスターリースのメリット
マスターリースによる不動産経営は賃貸経営の業務負担を軽減できる方法です。ここではマスターリース契約で経営するメリットを解説します。
契約を一元化できる
マスターリースなら不動産経営に必要な契約を一元化できるため、契約管理の負担が小さいのがメリットです。個々の入居者と賃貸借契約をして、家賃や原状回復義務などの詳細な契約内容を把握して対応したり、契約更新時期を管理したりする必要があります。管理委託方式では委託先の管理会社との契約も管理しなければなりません。マスターリースなら契約一つで完結させられるため、契約の締結や管理の業務負担が軽くなります。
家賃保証型なら空室リスクがない
マスターリースは、家賃保証型の契約をすることで空室リスクを回避できます。家賃保証型は、サブリース会社から一定の賃料を毎月受け取る仕組みのマスターリース契約です。たとえ全室が空室だったとしても、一定の賃料を受け取ることができ、年度末に一斉に退去者が出た場合でも収益が減少することがありません。
一方、パススルー型のマスターリース契約では空室リスクが伴います。満室の場合、パススルー型の方がより高い賃料収入を得られるため、どちらの契約が適しているかを慎重に検討することが重要です。
入居者管理を任せられる
マスターリースは、入居者管理を一任できる方法です。入居者募集、入居手続き、家賃徴収、クレーム対応、退去手続き、リフォームの手配など、すべての対応をサブリース会社に任せることができます。自主管理による不動産経営では、入居者からの問い合わせ対応や入退去手続きの交渉が大きな負担となりますが、マスターリースを利用すればその負担を軽減できます。
管理委託方式でも、管理会社に入居者管理を委託することは可能ですが、マスターリースでも同様の管理をサブリース会社に任せることができます。
日常的な建物管理を任せられる
マスターリース契約では、日常的な建物管理もサブリース会社に任せることができます。共用部の清掃や設備の定期点検、電灯の電球交換などの対応はサブリース会社が行います。軽微な修繕についてもサブリース会社が対応する場合がありますが、大規模修繕工事についてはオーナーが負担するのが一般的です。ただし、サブリース会社が工事の計画を立て、業者の手配や施工管理を担当してくれるため、大規模修繕工事を実行する際の負担は少なくて済みます。
相続税を節税しやすい
マスターリースは、土地と建物の相続税対策として有効な方法です。賃貸している土地や建物は賃貸割合が大きいほど相続税評価額が低くなります。マスターリースでは、一般的に不動産を一括して賃貸するため、賃貸割合を100%にすることが可能です。
賃貸経営をしている場合の土地と建物の相続税評価額は以下のように計算されます。
貸家建付地の相続税評価額=土地の相続税評価額価額-土地の相続税評価額価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合 |
建物の相続税評価額=建物の固定資産税評価額×借家権割合×賃貸割合 |
借家権割合は全国一律で30%、借地権割合は地域ごとに30%~90%で定められています。
自主経営や管理委託方式で不動産経営をしている場合、空室があるとその部分は賃貸割合に含まれません。例えば、10室のマンションで2室が空室の場合、賃貸割合は80%になります。しかし、マスターリースではマンション全体を賃貸するため、2室が空室でも賃貸割合は100%です。これにより、相続発生時の空室状況に関係なく、100%の賃貸割合で相続税評価額を算出できます。
なお、具体的な数値や法律の詳細については、専門家や税理士に相談することをお勧めします。
参照:No.4602 土地家屋の評価|国税庁
参照:No.4602 土地家屋の評価(Q&A)|国税庁
参照:No.4613 貸宅地の評価|国税庁
参照:【相続税の申告要否判定コーナー】-1 「土地等」の入力について
マスターリースのデメリット
マスターリースはリスクを伴うため、国土交通省からも注意喚起がなされています。ここではマスターリースで不動産経営をするデメリットを解説します。
参照:No.4614 貸家建付地の評価|国税庁
参照:「不動産投資」「老後の年金・相続税対策」「土地有効活用」などについてお考えの皆様へ|国土交通省
他の経営方法より収益率が低い
マスターリースは、自主経営や管理委託と比較すると収益率が低いというデメリットがあります。特に家賃保証型の契約を結ぶと、家賃の約15%が手数料としてかかるため、管理委託の約5%と比べて管理費用の負担が大きくなります。
不動産経営の収益性を重視するならば、自主経営を行うのが理想的です。しかし、マスターリースや管理委託を利用することで経営の負担を軽減できるため、バランスを考慮して最善の方法を見出すことが重要です。
賃料変更になるリスクがある
マスターリースでの賃貸経営には、賃料変更のリスクがあります。一般的に、マスターリース契約では契約期間中や契約更新時に契約内容の見直しが行われます。経年により建物の価値が下がったり、周辺の賃貸物件の設備やサービスが向上したりすると、賃料を下げなければ空室を埋められなくなることがあります。
マスターリースでは、サブリース会社は借地借家法第32条に基づき、税額の変化や経済状況の変動、競合の動向の変化に応じて賃料の増減を請求する権利を有しています。賃料の大幅な引き下げにより、当初想定していた収益が得られず、ローンの返済が困難になる場合もあります。
なお、具体的な数値や法律の詳細については、専門家や税理士に相談することをお勧めします。
参照:賃料減額請求後の手続 - 公益社団法人 全日本不動産協会
固定資産税・都市計画税の負担がある
マスターリースでは、不動産の一括借り上げを依頼して賃貸経営を行いますが、不動産自体はオーナーの所有物です。そのため、土地や建物に対する固定資産税や都市計画税を継続的に納める必要があります。これらの税金は、土地と建物のそれぞれについて固定資産税評価額が3年に1回の評価替えを受け、その評価額に基づいて毎年納めることが求められます。
例えば、土地活用のためにマンションを建てた場合、今後はそのマンションの固定資産税も納める必要があります。経営による収益を試算する際には、固定資産税も考慮に入れることが重要です。
大規模修繕工事費用や原状回復費用はなくならない
マスターリースで賃貸経営を行う場合、入居者管理や建物管理の費用はサブリース会社が負担します。しかし、建物の大規模修繕工事や退去者が出た際の原状回復工事の費用は、オーナーが負担するのが一般的です。
マスターリース契約に加えて、プロパティマネジメント契約を締結することで、大規模修繕工事や原状回復工事の費用もサブリース会社が負担する形にすることは可能です。ただし、手数料が高くなるため、費用対効果を考慮して検討する必要があります。
中途解約される場合がある
マスターリースには、中途解約のリスクがあるというデメリットがあります。サブリース会社は事前に告知すれば中途解約できる契約を用意していることが一般的です。賃貸経営を行ったものの、集客がうまくいかず赤字経営になる場合、サブリース会社は撤退せざるを得ません。サブリース会社が契約の解除を求めた場合、その後の賃貸経営を再考する必要があり、経営が困難になることもあります。
自由に解約できない
サブリース会社は解約の予告期間を設ければ自由に解約できますが、オーナーはマスターリース契約を締結すると自由に契約を解約することができません。借地借家法により借主が保護されているため、正当な事由がない限り、オーナーから契約の解約を求めることはできません。賃料改定によって不動産投資ローンの返済が困難になるほどの賃料収入になっても、オーナーの都合では契約を解除することができないのです。
赤字経営を続けなければならないリスクがあるのが、マスターリースでマンションやアパートを経営するデメリットです。借地借家法が適用されない駐車場などのマスターリースであれば問題はありませんが、住宅を提供する賃貸経営を行う際には注意が必要です。
参照:賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(令和2年法律第60号)|国土交通省
マスターリースでの不動産投資なら駐車場経営もおすすめ
マスターリースは、契約を一本化することで経営負担を軽減しやすい不動産投資の方法です。賃料保証を受ける定額型のマスターリース契約が一般的ですが、収益性を見込める場合にはパススルー型で契約することも可能です。マンションやアパートなどの住宅は法的に保護を受けられるメリットがありますが、借地借家法が適用される貸主側の立場になるためデメリットもあります。
マスターリースによる経営や管理の負担を軽減したいと考えるなら、駐車場経営も選択肢の一つです。月極駐車場やコインパーキングの経営によって賃料や利用料を得るのが駐車場経営の基本です。駐車場は自主経営も可能ですが、マスターリースを活用して運営会社に経営や管理を任せる方法もあります。
特に土地活用において、駐車場経営は初期投資を大幅に抑えられる点が魅力です。マスターリースによる経営は、慣れていないと想定外の損失を招くリスクがあります。初期投資が小さい駐車場経営でまずはマスターリースによる不動産投資の経験を積むことをおすすめします。
まとめ
マスターリースは、不動産のオーナーが一括借り上げによる不動産経営を行う際に利用する方法です。原賃貸借契約を締結し、サブリース会社がマンションやアパートの入居者と転貸借契約を結ぶ仕組みを整えます。マスターリースは、不動産全体の管理と入居者管理を一本の契約で一社に委託できる特徴があります。
マスターリースによる不動産経営は、経営や管理の負担を軽減するメリットがありますが、賃貸人として借地借家法の制約を受けます。賃貸住宅管理業法により、賃貸住宅経営の契約面でトラブルが少なくなりましたが、マスターリースのメリットとデメリットを総合的に考慮して、不動産投資の可否を判断することが重要です。
駐車場経営は、マスターリースを利用して少額から始められる不動産投資の方法です。マンションやオフィスビルのマスターリース契約に不安がある場合、駐車場経営がおすすめです。駐車場投資を通じてマスターリースによる経営経験を積み、マンションなどへの展開を検討するのも良いでしょう。
※本記事は可能な限り正確な情報を元に制作しておりますが、その内容の正確性や安全性を保証するものではありません。引用元・参照元によっては削除される可能性があることを予めご了承ください。また、実際の土地活用についてや、税金・相続等に関しては専門家にご相談されることをおすすめいたします。