立ち退き料の相場は?不要なケース・安くする交渉のポイントを解説

借主に契約解除を申し出るときには立ち退き料を請求されるのが一般的です。立ち退き料の相場は数十万円~1億円以上で、賃貸物件の種類や借主、立ち退きを要求する理由によって大きな違いがあります。この記事では物件の種類による立ち退き料の相場を紹介します。立ち退き料は必ず支払わなければならないわけではありません。立ち退き料が不要なケースや立ち退き交渉で金額を抑えるコツもご紹介します。

立ち退き料の相場は?不要なケース・安くする交渉のポイントを解説のイメージ

目次

  1. 1立ち退き料とは
  2. 2立ち退き料の相場
  3. 3立ち退き料の内訳
  4. 4立ち退き料が不要なケース
  5. 5立ち退き料の計算方法
  6. 6立ち退き料を相場より安くする交渉の14個のポイント
  7. 7駐車場経営なら立ち退き料は心配なし
  8. 8まとめ

立ち退き料とは

立ち退き料とは、貸主の都合で借主に退去を求めるときに支払う代償金のことです。住宅や店舗、オフィスなどの建物を賃貸している借主は、借地借家法によって保護されています。そのため、貸主が賃貸経営をやめたくなったから退去してほしいといった要求は、普通借家契約では原則として認められていません。

建て替えたい場合にも、正当な理由がなければ認められず、借主に与える損失や迷惑を立ち退き料によって補償する必要があります。

参照:借地借家法 | e-Gov 法令検索
 

立ち退き料の借地借家法における根拠

立ち退き料の支払いが発生する根拠となる法律は、借地借家法第28条です。この条文では、住宅や店舗などの建物の賃貸契約において、正当な事由がなければ立ち退きの要請ができないことを規定しています。

立ち退きの要請事由が正当と判断するには以下の要素を考慮して判断します。

・貸主および借主が建物の使用を必要とする事情
・建物の賃貸借における従前の経過
・建物の使用状況および現況
・貸主から借主に対する財産上の給付


つまり、借主は立ち退きを求められたときに十分に正当な条件が揃っていない限りは、貸主に対して財産上の給付(立ち退き料)を要求できます。

参照:借地借家法 | e-Gov 法令検索

 

立ち退き料と法的根拠の関係

立ち退き料は法的に一律に決まっているわけではありません。上述の要素から総合的に判断して正当と見なせるかが重要なポイントです。立ち退きを要求する理由が十分でない場合に立ち退き料で補填することになります。そのため、立ち退き料はその他の要因によって金額が変わるため、立ち退き料の相場はあくまで目安の金額です。正当な理由がある場合には立ち退き料を支払わずに退居してもらうこともできます。
 

立ち退き料の相場

立ち退き料の相場は、立ち退き交渉をする状況や物件の種類などのさまざまな要因によって異なります。状況によって金額に差があるため、あくまで目安としてご覧ください。

アパート
アパート経営における住宅の立ち退き料は、一般的に賃料の6~10ヶ月分が相場です。例えば、家賃が8万円の部屋の場合、立ち退き料の目安は48万円~80万円程度です。

オフィス
オフィスの立ち退き料は、賃料の1~3年分が相場とされています。例えば、賃料が30万円のオフィスでは、360万円~1,080万円が立ち退き料の目安となります。

店舗
店舗の場合、立ち退き料は売上の状況による違いが大きいため、物件の種類によって大差があります。規模が小さい店舗であれば数百万円で済む可能性がありますが、規模が大きい場合には億単位の立ち退き料になることもあります。
 

【種類別】立ち退き料の相場一覧

立ち退き料の相場を物件の種類ごとにまとめると以下の通りです。実際には立ち退き理由などによって変わるので目安として参考にしてください。
 

物件の種類 立ち退き料の相場
住宅 賃料の6~10ヶ月分
オフィス 賃料の1~3年分
店舗 コンビニ 7,000万円~1.5億円
ドラッグストア 7,000万円~1.5億円
飲食店 500万円~1.5億円
小売店 300万円~600万円
クリニック 1億円~2億円
美容院 400万円~500万円

立ち退き料の内訳

立ち退き料は貸主の都合によって借主が被る損失の補填と考えられます。立ち退き料の内訳は大枠では以下の3つに分けられます。
 

  • 移転費用補償(引っ越し料金、仲介手数料、礼金、火災保険料など)
  • 借家権補償(迷惑料、慰謝料)
  • 営業補償(営業休止補償など)

移転費用補償

移転費用補償は引っ越しにかかる実費の補償です。引っ越し業者の利用にかかる費用や仲介手数料、移転先の賃料との差額の補填などが求められます。移転通知の送付や行政手続きにかかる費用も補償するのが一般的です。
 

借家権補償

借家権補償は建物を借りて利用する権利を失うことに対する補填で、迷惑料や慰謝料とも解釈できます。借家権の金額は後述のようにさまざまな方法で計算できますが、合理的な計算方法が確立されているわけではありません。借主と交渉して決めることになります。

営業補償

立ち退き料が不要なケース

オフィスや店舗の場合には営業補償が必要なので立ち退き料が高くなります。営業補償は立ち退きの対応によって、事業者が被る損失の補填です。上述の移転費用も含めて、営業を休止している間の想定利益を支払うなどの対応が必要になります。

借地借家法に基づくと、立ち退き料は正当な事由があれば不要です。ここでは立ち退き料が不要になるケースを紹介します。
 

定期建物賃貸借契約の場合

定期建物賃貸借契約の場合には、契約期間が満了した時点での立ち退きでは立ち退き料が発生しません。一定期間の利用を前提とした契約になっているからです。契約期間の途中で立ち退きを要求する場合には立ち退き料の対象になりますが、計画的に期間を定めれば希望のタイミングで退居してもらえます。
 

賃貸借契約に契約期限を設けた場合

通常の賃貸借契約でも、契約期限を設けていれば期限のタイミングで立ち退きを依頼する限りは原則として立ち退き料がかかりません。定期建物賃貸借契約の場合と同様に、契約期限前に立ち退きを要求する場合には立ち退き料を求められる場合があります。特に一時利用目的での賃貸借の場合は、借地借家法の対象にならないので立ち退き料の負担はありません。

借主が賃貸借契約に違反した場合

賃貸借契約に基づいて借主が違反行為をした場合には、貸主が立ち退きを要求する正当な事由になります。家賃を滞納している場合や迷惑行為をして隣人からクレームが届いているなど、契約書に記載されている内容であれば違反していることを指摘して立ち退きを求めることが可能です。ただし、違反の指摘に対して借主から異議があって抗争になると、裁判になる場合もあります。
 

自然災害などにより物件に重大な危険が生じた場合

地震や土砂崩れなどの被害を受けて物件の利用に重大な危険が発生しているケースでは、立ち退き料をなくせる可能性があります。老朽化が原因の場合には貸主の都合になるので立ち退き料がかかりますが、やむを得ない事由で建物の危険性が著しく高まったときには立ち退き料を不要にする交渉が可能です。
 

建物の所有を目的としない賃貸借の場合

賃貸借契約が建物の所有を目的としない場合には借地借家法を法的根拠にできません。借地借家法第1条には以下のように書かれています。

「建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権の存続期間、効力等並びに建物の賃貸借の契約の更新、効力等に関し特別の定めをする」

建物のない土地の賃貸借の場合には必ずしも借地借家法が適用されるわけではありません。青空駐車場や資材置き場などの場合には立ち退き料を支払う必要がないケースがあります。

 

立ち退き料の計算方法

立ち退き料は住宅か事業所かによって計算方法に違いがあります。ここではそれぞれのケースについて立ち退き料の計算方法を紹介します。

住宅での借家権に基づく立ち退き料の計算方法

住宅の場合には移転費を含む借家権に基づく補償が立ち退き料です。立ち退き料の計算で難しいのは借家権補償の金額を算出することですが、以下のような計算方式があります。
 

方式 借家権の計算方法・計算式
収益還元方式(差額賃料還元方式) 移転先と現在の賃料の差×複利年金現価率
割合方式 (土地価格×借地権割合×借家権割合)+(建物価格×借家権割合)
収益価格控除方式 自分で利用したときの土地建物価格-借家としての土地建物価格
比準方式 事例に基づいて各種要因を考慮して決定

計算方式による違いはありますが、立ち退き料の相場に合う金額を算出できます。実際には引っ越し料金や家賃増額分などの実費から立ち退き料を計算する場合もあります。

 

オフィス・店舗の営業補償による立ち退き料の計算方法

オフィスや店舗の立ち退き料では営業補償が求められます。営業補償の内訳は以下の5つに分けられます。
 

補償項目 内容
工作物補償 移転先で必要な工事費用
動産移転補償 移転先への動産の移転に伴う費用(引っ越し費用)
移転雑費補償 移転にかかる諸費用(仲介手数料、登記費用、広告費用など)
借家権補償 移転先との家賃や保証金の差額
営業休止補償 移転に伴う休業期間の損失の補填

新しい物件に移転して新たに営業を始めるためにかかる費用の補償が工作物補償、動産移転補償、移転雑費補償です。借家権補償は新しい物件に移転したことで生じる賃貸契約に伴う費用負担の差額を補填します。営業休止補償は収益の減少、得意先との取引の喪失、従業員の休業手当、固定費の支払い負担の補償などが該当する項目です。
工作物補償や営業休止補償は業種や業態、規模などによる違いが大きいので、立ち退き交渉を始める前にどの程度になるかを確認した方が良いでしょう。

立ち退き料を相場より安くする交渉の14個のポイント


立ち退き料は相場に従って支払いをすれば良いと単純に考えがちです。しかし、立ち退き料は借主との合意によって安くできる場合もあります。ここでは立ち退き交渉をするときのコツを紹介します。
 

入居者が少ないタイミングで検討を開始する

アパートやテナントビルなどを経営している場合には、入居者募集をやめて入居者が退居して減ってから検討しましょう。立ち退き交渉をする借主が多いほど立ち退き料は高くなります。交渉の手間も負担も大きくなるので重要なポイントです。
 

契約違反の可能性を検討する

賃貸契約書やクレームなどの履歴を確認して、借主が違反行為をしていた可能性を調査しましょう。契約を解除する理由にできる問題を起こしていた場合には正当な事由で立ち退きを求められる場合があります。少なくとも立ち退き料の負担を減らせる可能性があります。

立ち退き理由を明確にまとめる

立ち退き理由は借主が納得するようにわかりやすくまとめて提示することが大切です。借主が納得すれば立ち退き料がかからない場合も、減らせる場合もあります。立ち退きが必要な理由が建物の倒壊リスクがあるからだと伝えても、嘘ではないかと疑われる場合があります。建物診断の結果を添えるなどの工夫をして根拠のある説明をすることが大切です。

余裕をもって交渉を始める

貸主が借主に立ち退きを求める際、一般的には契約書に「6ヶ月前までに通知すること」と記載します。ただし、立ち退き交渉は難航することも多いため、できるだけ早めに始めることが重要です。最終的に立ち退かなければならない期日が早めにわかれば、借主も移転先を探したり、行政手続きを進めたりする余裕が生まれます。早期の通知は借主に好意的に受け取られやすく、立ち退き交渉が円滑に進む可能性が高まります。

定期借家契約に切り替える

借地借家法が改正され、2000年3月1日から定期借家制度が導入されました。これにより、事業用建物の場合は、普通借家契約を合意解約すれば、自由に定期借家契約を締結することができます。

一方、居住用建物については、定期借家制度が導入された2000年3月1日よりも前に契約を締結していた場合は、たとえ合意解約したとしても、定期借家契約を締結することは当分の間はすることができないと制限がされています。しかし、2000年3月1日以降に契約している場合は、普通借家契約が終了した後に、新たに定期借家契約を締結することが可能です。
ただし、合意解約や定期借家契約の締結を強制することはできず、任意の合意が必要です。


参照:定期借家制度(定期建物賃貸借制度)をご存じですか・・・?
参照:既存アパートの定期借家契約への切替え - 公益社団法人 全日本不動産協会
 

引っ越し先の物件を用意する

借主の引っ越し先の物件を貸主が準備すれば立ち退き料を抑えられます。もし複数の物件を所有していて代替物件を提供できるなら選択肢の一つとして良いでしょう。賃料の調整もすれば、引っ越し費用などの最小限の費用で立ち退いてもらえる可能性があります。
 

原状回復義務をなくす

借主は退居のときに原状回復義務があると契約書に記載しているのが一般的です。建物の解体や建て替えを考えているなら、原状回復をしてもらう意味はあまりありません。原状回復義務を免除するという条件を提示すると立ち退き交渉で有利になります。オフィスや店舗ではスケルトンに戻すための原状回復費用が高いので、立ち退き料を減らせる可能性が高い方法です。
 

今後の賃料を調整する

退去日までの賃料を調整するのも交渉方法の一つです。賃料を免除して使用貸借契約に切り替えるか、賃料を割引する方法があります。賃料を減らした分だけ立ち退き料から差し引くという形で交渉すれば取引が成功しやすいでしょう。特に事業用建物の場合には賃料を支払うと消費税がかかるため、無償の使用貸借契約にすればコストを抑えられます。お互いのメリットになる形を整えられるので効果的な方法です。

参照:No.6225 地代、家賃や権利金、敷金など|国税庁

 

敷金を早めに返還する

預かり金の敷金を早めに返還すると立ち退き交渉をしやすくなります。敷金が返還されれば、移転の準備を進める資金源が増えるからです。オフィスや店舗の場合には数ヶ月分の敷金を預けている場合が多いので、合意の時点で速やかに返還すると提案すると好印象を持ってもらえる可能性が高くなります。

 

建て替えでは再入居を確約する

建て替えを予定しているときには、借主に再入居の意向を聞いてみましょう。立地が優れている場合には再入居を希望してもらえる場合があるからです。再入居を確約するだけでも立ち退き交渉が進みやすくなります。部屋を広げたい、オフィスをワンフロアにしたい、店舗デザインを変更したいといった希望がある場合には、意見を取り入れて建築計画を立てて提示すると納得してもらいやすくなります。
 

交渉内容は書面に残す

借主との立ち退き交渉の内容は書面にまとめてお互いの最終合意を得ることが重要です。口頭での合意だけでは言った、言わなかったという問題がよく起こります。立ち退き料の算定理由、金額、支払い方法、支払日などを詳細に書面にまとめて残すことが大切です。

 

立ち退き料を先に提示する

立ち退き料はゼロなら理想的ですが、借主が貸主から立ち退きを命じられたときには立ち退き料をもらえることを知っていれば請求されます。立ち退き交渉では立ち退き料を貸主から具体的に提示することがコツです。もらえるなら金額が大きい方が良いと考えるのはもっともなことで、理由を付けて金額を上げようと考えられてしまいます。最初に提示した金額で納得してもらえれば速やかに解決するので、相場に合う金額を提示することが大切です。
 

裁判にならないように誠実に対応する

裁判になると基本的に貸主は不利です。借地借家法は貸主の権利を守るために定められている法律なので、法廷で争うと不利な結果に終わる可能性があります。できるだけ事を荒立てずに、話し合いで解決することを目指しましょう。立ち退き交渉を始める時点から誠実な態度を保ち続けることが大切です。

 

不安がある場合には専門家に相談する

立ち退き交渉で不安がある場合には専門家に相談して対応しましょう。法的に立ち退きを要求できるかを知りたい場合や、法的に不利な場合で交渉をしたい場合には弁護士が頼りになります。立ち退き料の相場も理解しているので大きな助けになるでしょう。入居者募集や建物管理に利用している不動産会社も立ち退き交渉のサポートをしている場合があります。地域で信頼できる弁護士事務所を紹介してもらえる場合もあるので相談してみましょう。

駐車場経営なら立ち退き料は心配なし

立ち退き料は相場が高くて支払えず、アパート経営や賃貸オフィス経営をやめたいと思ったときに撤退できない状況に陥る場合があります。しかし、不動産投資や土地活用では、必ずしも立ち退き料がかかるわけではありません。駐車場経営は建物の賃貸に該当しないため、立ち退き料の問題が起こりにくい方法です。

月極駐車場で契約をする場合にも、契約書に貸主の意向による契約解除について記載しておけば、立ち退き交渉の問題もあまり起こりません。月極駐車場やコインパーキングは始めやすく撤退しやすいのが特徴です。将来的に土地を転用したいと考えている場合にも、必要なタイミングで切り替えられます。

アパートや賃貸オフィスなどの経営では、撤退や建て替えのときに立ち退き料のトラブルが生じがちですが、駐車場経営なら心配ありません。ぜひ、検討してみてください。
 

駐車場経営を始めてみよう
駐車場経営を始めるべきか迷っている方に対して、駐車場経営のメリットや注意点、運営会社の選び方...

まとめ

立ち退き料は、貸主の都合で借主に退去を求める際に、借主の損失や不利益を補填するための支払い費用です。借地借家法を根拠にして、借主から請求されることがあります。正当な事由があれば立ち退き料が不要なケースもありますが、相場は数十万円から数億円に及ぶことがあるため、賃貸経営をする際には注意が必要です。

一方、駐車場経営では立ち退き料の心配がありません。希望のタイミングでサービスを休止して修繕や改善を行うことができ、必要な時に撤退して土地を転用することも可能です。立ち退き交渉の負担が少ないため、土地活用の方法として駐車場経営も検討する価値があります。
 

※本記事は可能な限り正確な情報を元に制作しておりますが、その内容の正確性や安全性を保証するものではありません。引用元・参照元によっては削除される可能性があることを予めご了承ください。また、実際の土地活用についてや、税金・相続等に関しては専門家にご相談されることをおすすめいたします。
 

関連するまとめ

Banner pc

人気の記事

人気のあるまとめランキング

新着一覧

最近公開されたまとめ
Banner pc