2021年04月30日公開
2021年04月30日更新
土地活用が相続税対策として有効な理由!節税効果を得る方法・仕組みを紹介
相続税の節税対策として、賃貸アパート・マンション経営などの土地活用は有効的な手段と言われています。その理由をご存じでしょうか?この記事を読み、相続税の仕組みや土地活用がなぜ節税対策に有効なのかを理解することで、今後の対策を明確に立てることができるでしょう。
土地活用は相続税対策として有効!
よく「土地活用をすると節税対策になる」と言いますが、実際にその通りなのでしょうか?また、節税できる種類に相続税も含まれているのでしょうか?本人や親族が財産をたくさん保有している方は、特に気になる話でしょう。
結論から申し上げると、土地活用は方法次第で高い節税効果を得ることができます。もちろん、相続税対策にも有効的です。では、なぜ土地活用が相続税対策として有効的なのか理解するために、相続税の仕組みから確認していきましょう。
相続税の仕組み
相続税とは、被相続人(亡くなった方)から相続人へ財産を相続する際に、財産の価格に応じて課税される税金のことです。相続税は、相続財産から基礎控除額を差し引いた金額に課税され、この金額のことを「課税遺産総額」と呼びます。
そして、課税遺産総額に国で定められた税率を乗じて相続税が算出されます。このように、相続税を算出するには段階ごとに確認する内容があるのです。
①法定相続人が何人か確認する
相続が発生した場合、まずは被相続人の財産がいくらあるのかを確認します。それと同時に、法定相続人が何人いるのかを確認しなければなりません。
法定相続人とは、民法の相続法によって定められた相続人のことで、被相続人との関係や人数で受け取る割合が決まります。まず大前提として、被相続人に配偶者がいる場合、配偶者は必ず法定相続人になります。
その他の相続人は相続順位によって決まっていき、第1順位は「子供」です。配偶者と子供がいる場合、相続財産の2分の1ずつが受取割合になります。配偶者はいないが子供がいる場合は、子供が全額受け取ることになるなど、どちらかがいない場合は生存している方が全額相続することになります。
また、子供が既に亡くなっている場合でも孫がいる場合は、孫が法定相続人となり第2順位に順番は渡りません。
子供も孫もいない場合は、第2順位の「親」になります。配偶者と親がいる場合の受取割合は、配偶者が相続財産の3分の2、親が相続財産の3分の1になります。両親共に健在の場合は、3分の1を更に半分に分け、受取割合にします。
子供も親もいない場合は、第3順位の「兄弟姉妹」になります。配偶者と兄弟姉妹がいる場合の受取割合は、配偶者が相続財産の4分の3、兄弟姉妹が4分の1になります。兄弟姉妹が複数いる場合は、4分の1を更に均等に分け、受取割合にします。
子供がいる→ | 配偶者:2分の1 子供:2分の1 |
||
子供がいない→ | 親がいる→ | 配偶者3分の2 親:3分の1 |
|
親がいない→ | 兄弟姉妹がいる→ | 配偶者:4分の3 兄弟姉妹:4分の1 |
|
兄弟姉妹がいない→ | 兄弟姉妹の子供が 法定相続人 |
また、被相続人が遺言書を残していた場合はその内容に従わなければなりません。ただし、法定相続人には「遺留分」があり、相続財産の2分の1を受け取る権利があります。遺留分を行使した場合は、相続財産の2分の1を上記の内容で分割し、受取割合とします。尚、兄弟姉妹には遺留分を請求する権利はありません。
②基礎控除額・課税遺産総額を確認する
法定相続人の数が解ったら、基礎控除額を計算します。基礎控除の金額は下記の計算式で算出します。
3,000万円+(600万円×法定相続人の数) |
この場合の法定相続人の数は民放上の意味であるため、もし相続を放棄した法定相続人がいる場合でも、人数に含まれれることになります。また、養子も法定相続人として認められます。
基礎控除額が解ったら、相続財産から基礎控除額を差し引き、課税遺産総額を算出します。この金額をそれぞれの受取割合に沿って分割し、各自の課税金額が算出されます。
ただし、配偶者には「相続税の配偶者控除」があり、相続税がかかるケースは非常に少ないのが現状です。この他にも状況に応じて控除がある場合もあるので、相続税を計算する前には控除額の確認を忘れないようにしましょう。
③相続税を計算する
各自の課税金額が解ったら、下記の表に沿って相続税を計算します。
課税金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
相続税の課税額をシミュレーションで計算
では実際に、相続税の課税額をシミュレーションしてみます。
■「被相続人の財産は8,000万円/配偶者あり/子供2人」の場合
- 法定相続人の数→3人(配偶者+子供2人)
- 基礎控除額→3,000万円+(600万円×3)=4,800万円
- 8,000万円−4,800万円=3,200万円
このケースの場合、3,200万円に相続税が課せられることになります。
2015年1月1日以降の相続税は増税
ちなみに相続税の基礎控除額は、2015年1月1日以降に変更されて今の計算式になりました。2014年12月末までは「5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)」だったため、現在の制度では相続税が課税されても以前の制度なら課税されないケースもあったのです。
この増税をきっかけに、相続対策を検討する方が増えました。土地活用を行う人が増えたのにもこの背景が影響していると言えるでしょう。
土地活用で相続税対策を講じる方法・仕組み
土地活用は収益を生み出すだけでなく、相続税の節税効果を高めることが可能です。この章では、土地活用でできる相続税の節税対策をご紹介していきます。
①相続税評価額を安く抑える
1つ目の方法は相続税評価額を安く抑えることです。相続が発生した場合、被相続人の財産を相続税評価額で計算します。そのため、相続税評価額を下げることができれば、相続税を減らすことが可能になるのです。
土地活用で相続税評価額を下げるには下記の方法があります。
- 現金を使って建築物を新築する
- 賃貸物件として他人に貸す
- 更地を貸家建付地に変える
それぞれの内容を詳しく見ていきましょう。
現金を使って建築物を新築する
多額の現金を保有している被相続人の場合は、建築物を建てることで約40%相続税評価額を下げることが可能です。
なぜなら、現金の相続税評価額は金額そのものですが、建物の相続税評価額は約60%となるからです。現金に比べ建物の価値の算出は難しく、一般的に費やした金額より低くなることが多いことが理由です。
賃貸物件として他人に貸す
建築物を賃貸物件として貸し出すことで、更に約30%相続税評価額を下げることが可能です。賃貸物件として建築物を人に貸している場合、借地権は借り手側の相続税の対象となり、その割合は30%です。そのため、貸している側は30%を除いた分の70%が相続税評価額の対象になるのです。
つまり、1億円かけて建てた建築物の相続税評価額は約6,000万円(1億円×60%)となり、その物件を賃貸物件にした場合の相続税評価額は4,200万円(6,000万円×70%)になるのです。
更地を貸家建付地に変える
保有している土地を「貸家建付地」にすることで、約20%相続税評価額を下げることも可能です。貸家建付地とは、自分が保有している土地に貸家用の住宅を建て、建物だけ貸している土地のことです。土地は本人所有であっても家を利用するのは借主である、という視点から、自己保有の土地より評価を下げるべきとみなされるのです。
貸家建付地の相続税評価額は下記の計算式で算出されます。
更地の相続税評価額ー{更地の相続税評価額×(1ー借地権割合×貸家権割合)} |
借地権割合は地域などにより割合が変わり、30~90%と幅があります。都市部では60~70%が一般的です。借家権割合は一律で30%です。
もし、更地の相続税評価額が9,000万円・借地権割合が70%だった場合
- 9,000万円−{9,000万円×(1-0.7×0.3)}=7,110万円
ただし、被相続人名義で賃貸物件を建築した場合、賃料収入は不動産収入として被相続人の財産として増え続けます。その結果、期待したほどの節税にならないケースもあるので、建築物を誰の名義で建てるかはしっかり検討しましょう。
②小規模宅地等の特例を利用する
2つ目の方法は、小規模宅地等の特例を利用することです。小規模宅地等の特例とは、被相続人が住んでいた土地や事業で使用していた土地の評価額を、下記の一定条件を満たすことで、50%もしくは80%減らすことができる制度です。
区分 | 要件 | 最大面積 | 減額割合 | ||
事業用 | 貸付事業以外 | 特定事業用宅地等に該当する | 400㎡ | 80% | |
貸付事業 | 法人(貸付事業以外)に貸していた土地 | 特定同族会社事業用宅地等に該当する | 400㎡ | 80% | |
貸付事業用宅地等に該当する | 200㎡ | 50% | |||
法人(貸付事業用)に貸していた土地 | 貸付事業用宅地等に該当する | 200㎡ | 50% | ||
被相続人の貸付事業用の土地 | 貸付事業用宅地等に該当する | 200㎡ | 50% | ||
住居用 | 特定居住用宅地等に該当する | 330㎡ | 80% |
尚、前提条件として、被相続人と相続人が生計を共にしていた親族であることなどがあります。この制度を使うことで大幅に相続税評価額を下げることが可能ですが、適用できる土地は1カ所だけなので、複数土地を持っている場合はどの土地に適用させるのかを検討する必要があるので注意しましょう。
相続税対策に適した土地活用2選
土地活用をすることは相続税対策に有効なことがわかりました。では、どのような方法が相続税の節税に適しているのでしょうか?
①賃貸アパート・マンション・戸建住宅経営
1つ目は、賃貸住宅経営です。ここまでに解説してきた通り、保有している土地に建物を建て賃貸住宅として貸し出すことで、相続税評価額を大幅に減らすことが可能だからです。また、小規模宅地等の特例の条件に該当すれば、更に節税効果は高まります。
1つ注意したいのは、実際に相続が発生した後は相続人が賃貸住宅経営を引き継がなければならないことです。賃貸住宅経営は空室リスクや定期的な修繕の必要もあるため、経験のない方には難しい部分もあるでしょう。
今後のためにも、できるだけ被相続人が生存しているうちに、賃貸住宅経営のノウハウを学んでおくことをおすすめします。
②高齢者施設経営
2つ目は、高齢者施設経営です。サービス付き高齢者向け住宅や老人ホームなどが一般的です。賃貸住宅と同じように保有している土地に建物を建てるため、現金で資産を持つことと比べ大幅に相続税評価額を減らすことが可能です。
また、超高齢化社会に突入している日本において高齢者施設を経営することは社会貢献にもなる上、経営目線でも比較的高い利回りが期待できるため、おすすめの土地活用です。ただし、専門的な知識や働くスタッフの確保も必要になってくるため、経営していく上でのノウハウは必要です。
【参考】土地売却のメリット・デメリットと比較
土地活用を検討したときに「土地売却」を選択肢にいれる方も多いでしょう。参考までに、賃貸住宅経営と土地売却のメリット・デメリットの比較をご紹介します。
賃貸住宅経営 | 土地売却 | |
メリット |
|
|
デメリット |
|
|
メリット・デメリットの両方を把握し、土地活用方法を検討することをおすすめします。
土地活用で相続税対策を講じる際の注意点
最後に、土地活用で相続税対策を講じる際の注意点7つをご紹介します。後から慌てることのないよう、しっかり把握しましょう。
①納税資金・遺産分割の準備も怠らない
注意点1つ目は、納税資金・遺産分割の準備も怠らないことです。ここまで相続税の節税対策について解説してきましたが、これは納税資金の準備を整えた上での話です。遺産分割も同様です。特に節税対策に有効な手段である賃貸住宅を建てる場合には注意が必要です。
なぜなら、不動産は分割できないからです。子供が複数いる場合は、できるだけ均等に財産を残したいと考えるでしょう。現金や株式などは分割しやすい財産ですが、不動産は分割することができないため、不動産を含めた財産をいかに均等に分割するかが重要になってきます。
そのため、相続対策のために建築物を建てる場合は、遺産分割のことも頭に入れて検討する必要があるのです。
子供名義の賃貸住宅の建設もおすすめ
子供の資産形成や将来の相続税支払いの財源確保として、子供名義の賃貸住宅の建築もおすすめです。土地は親の名義・賃貸住宅を子供名義にした場合、賃料収入は不動産所得として子供の所得になります。早い段階で所得を得られるため、将来発生する相続税の納税資金を確保することができます。
また、将来的に土地の名義を親から子へ変更することで更なる資産形成も可能です。ただし、単純に名義変更をしてしまうと贈与扱いになり、贈与税が発生してしまいます。このような場合は弁護士や税理士に相談し、最適な手段を選びましょう。
②一次相続と二次相続を総合的に考慮する
注意点2つ目は、一次相続と二次相続を総合的に考慮することです。「一次相続」とは、法定相続人に配偶者と子供がいるような場合です。例えば、夫が亡くなり、妻と子供2人が相続人になるようなケースが該当します。
この場合、配偶者には配偶者控除があり、遺産が「1億6,000万円もしくは妻の法定相続分」の金額のどちらか大きい方までは相続税がかかりません。そのため、一次相続ではそれほど大きな相続税が発生しないことが多いのです。
問題なのは二次相続です。上記の場合の妻が亡くなったケースが二次相続です。つまり、夫から遺産を引き継いだ妻が亡くなり、子供が全財産を相続する場合です。この場合、配偶者控除のような大きな控除はありません。
基本的に相続財産から基礎控除を差し引いた金額に相続税が課されるため、相続税が多額になる可能性が高いのです。しかし、一次相続が発生した段階で二次相続のことも考慮し対策することで、二次相続時の相続税を軽減することができます。
一次相続発生時もしくは被相続人の生存中に、将来訪れる二次相続の対策を専門家を交えて相談しておくことが重要です。
③節税効果はこまめに確認する
相続税の節税とは、相続税評価額を少なくすることです。例えば賃貸住宅を建てた場合、初年度がいちばん節税効果が高いことになります。なぜなら、年数が経過するうちに賃料収入が増え、その分、被相続人の財産も増えるからです。
もちろん、財産が増えるのは良いことではありますが、相続はいつ発生するかわかりません。せっかく相続対策のために賃貸住宅経営を始めても、相続発生時に相続税評価額が以前より多いと節税対策をした意味がなくなってしまいます。
そのため、税理士などに相談をし、少なくても2~3年に1度は節税対策の確認をすることをおすすめします。
④自己資金・借入金のどちらで行うか吟味する
注意点3つ目は、自己資金・借入金のどちらで行うか吟味することです。建築物を建てる際の資金を自己資金と借入金のどちらにしようか迷う方も多いでしょう。
現金で支払う余裕のある方はどちらも大差ありません。むしろ、高い金利を支払ってまで借入金にする必要はないとも言えるでしょう。一方、建築資金を現金で支払えない方は借入金を使うことで節税効果は高くなります。
なぜなら、被相続人が亡くなったときに、借入金は相続財産から差し引いて計算されるため、相続税評価額が少なくなるためです。このように被相続人の資産状況によってもメリットは変わってくるので、よく検討する必要があります。
⑤遺産分割が困難になるデメリットを把握する
注意点5つ目は、遺産分割が困難になるデメリットを把握することです。現金と違って土地や建物は分割ができません。例えば法定相続人が子供3人だった場合、長男に相続税評価額8,000万円のマンションを相続させると、次男三男にも同等の資産を相続させなければトラブルになる可能性が高いのです。
被相続人が他にも不動産を持っている場合は問題ありませんが、同等レベルの不動産や現金、株式などがない場合、遺産をどういう方法で分割するかを検討しておかなければなりません。
不動産を複数名で共有することは可能ですが、あまりおすすめの方法ではありません。なぜなら、将来的に子供から孫、孫からひ孫へと更に土地を共有する可能性が大きくなり、最終的に不動産を活用することが困難になってしまうからです。
不動産を売却したくても共有財産になっている場合は、全員の許可が必要になります。親子3代に渡り土地を相続した場合、全員に連絡を取ることが難しく、売ることも活用することもできないまま放置せざるを得ない状態になってしまう土地は、実際に多く存在します。
⑥土地活用選びは相続税対策以外の観点でも検討する
注意点6つ目は、土地活用選びは相続税対策以外の観点でも検討することです。賃貸住宅経営は相続対策として有効的ですが、その他の土地活用でも節税対策は可能です。
例えば、駐車場経営は賃貸住宅経営に比べ初期費用が少なく済む上に、一括借上げ方式をとることで売上に関係なく安定した収入を得ることが可能です。初心者でも長期的に経営することに適しており、将来そのまま子供が経営を行うことも難しくないでしょう。住宅のように定期的な修繕も必要なく、不労所得を得られる土地活用として人気があります。
このように相続人が相続した後の運営が可能かどうかを考えて、土地活用選びをすることも重要になのです。
下記の記事では駐車場経営についての基礎知識を詳しくご紹介しています。ぜひ、参考にしてください。
⑦税務の専門家からサポートを受ける
注意点7つ目は、税務の専門家からサポートを受けることです。土地活用を始めると、今まで関わってこなかった税金や法律、経営や不動産の知識が必要になってきます。もちろん、自分で勉強することも大切ですが、専門家のサポートがあると安心できます。
税理士やファイナンシャル・プランナー、土地活用の専門会社など、必要な知識を豊富に持ち、適切なアドバイスをしてくれる人をパートナーにすると、相続対策もうまく進むはずです。
まとめ
この記事では、土地活用による相続税対策について解説してきました。重要なポイントを再確認しておきましょう。
- 土地活用(特に賃貸住宅経営)は相続対策として有効
- 土地活用で相続対策をするには、土地に建物を建て相続税評価額を下げることが重要
- ただし、建物は分割できないので遺産分割のことも考える必要がある
- 相続対策をする際には、納税資金の確保や遺産分割の準備、定期的に節税効果を見直すなどの注意点がある
- 一次相続が発生した際に二次相続のことまで考えて対策を練ることがおすすめ
- 土地活用は将来的に相続人が引き継げる経営方法を選ぶことも大事
- 相続財産から一定の金額が差し引かれる基礎控除は、法定相続人の数によって変化する
- 税理士やファイナンシャル・プランナーなどのプロのサポートを受け相続対策を行うと良い
相続対策は思い立ってすぐにできることではありません。しっかり計画を立て数年かけて進めることで、有効的な対策を取ることができるのです。この機会にご家族で相談してみてはいかがでしょうか?